22人が本棚に入れています
本棚に追加
あの日以来、栞里さんはうちのカフェには
来ていない。
仕事が忙しくなったのかもしれない。
そして、あっという間に週末がやって来た。
今日は、皆既日食が見られる日だった。
朝からその話題で、ニュースも盛り上がっていた。
「今日は、バイトあるからお昼いらない
から!
直人叔父さんが作ってくれるって!」
「分かったわ。じゃあこれ差し入れ持って
行ってくれる?」
「あっ、みかんだ!どうしたの?」
「昨日、おばあちゃんから送られて来たのよ。」
お母さんの実家は愛媛だった。
愛媛のみかんは絶品で、私は大好きだった。
「一つ食べちゃお!」
「あっ、こら!お土産なのに!
茉莉花のは、こっちにあるから!」
お母さんに怒られながら、私はみかんを
頬張って食べた。
「やっぱり、このみかん美味しい!
おばあちゃん、最高!」
「後で、お礼のメールしてあげな!
茉莉花から来たら喜ぶから。」
「うん。メールしとくね!
じゃあ、私バイト行って来まーす!」
「夜、あんまり遅いようなら、
直人兄さんに送ってもらいなよ。
最近、物騒だからね…。」
「分かった。そうしてもらうよ。
じゃあ、行くね。」
お母さんは少し、心配症な所があった。
でも、無理もない。
去年の夏、妹が塾の帰りに変な人に
襲われそうになったからだ…。
幸い、近くに交番があって、すぐにその人は捕まった。
それ以来、お母さんは妹の送り迎えをしている。
うちは、お父さんが居ない。
私が中学一年の時に離婚して、家を出て行った。
お父さんの浮気が原因だった。
私は、お母さんを裏切ったお父さんが大嫌いだった。
そんな最低な人が父親だと思うと、吐き気がした。
もう二度と会いたいとも思わない。
ただ、お母さんが心配だった。
仕事が忙しそうで…いつも疲れているからだ。
私は少しでも、役に立ちたくて、バイトを
始めたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!