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他とはチョット違うタヌキ
東京というところは、案外自然が多い。皇居に上野公園。新宿御苑に神宮外苑。それらを除いても、公園や神社は至る所にある。人の死角になるところには事欠かない。
そういうところには俺のような狸は珍しくない。
そして都心にぽっかりと空いた、これらの緑地で過ごすうちに、いくらかの狸はビル街で過ごすようになった。
人間の街は、ひとたび路地裏に行けば餌に事欠かない。投げ捨てられた生ゴミに、道の端に転がったペットボトル。食べている時に落としたのであろうパンの欠片やポテトチップスの破片。
案外、食べ物というのは落ちているものだ。
そしてこのようなモノを食べて、建物の隙間や下水道を走り、暮らしている狸もいる。
俺も以前はそうだった。だけど思ったのだ。
熱々の食事が食べたい、と。
街中で生きる狸達が、食べるモノは人間のおこぼれで、すっかり冷めて干からびた代物だった。
以前はそれでいいと思っていた。日にちが経ちすぎて腐ったモノでなければ、それなりに食べられるし、生きて行く分には十分だった。
だけどいつだったか、細い路地に立つラーメン屋を通りかかった時、ガラス戸に映るスーツ姿の男が麺をすする姿を見て、羨ましいなと思ってしまった。
ちょうど今日みたいな夕暮れだったから、きっと仕事帰りなのだろう。中年太りした、脂ぎった姿だった。狸の俺から見ても、決して容姿が優れているわけではないが、麺をすする姿が不思議とカッコよく見えた。
きっと美味しそうに食べていたからだろう。小刻みに息を吹き、麺を冷ますと勢いよく口の中に流し込んでく。
額に汗を浮かべながらも、視線は器から外さず、流れるように箸を動かしていた。
ああ、飯が食べたい。それも熱々の飯が。
ラーメン屋から漂ってくる、豚骨の香ばしい香りを感じながら、そう思った。
考えてみれば、人間ばかり出来たてのものを食べるのは不公平だ。なんでも出来たてが一番美味しい。自分たちだけ美味しいもの独り占めというのは、なんとも性格が悪い。
ということで俺も出来たてを食べることにした。
と言っても狸の姿のままなら、店から叩き出されるのがオチだ。だから普通ならそんなことできないはずだ。
だけど俺は普通ではない。
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