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ビール
つくね、ささみ、皮、からのハツ。
ひたすら肉を味わっていると、横から唸り声が聞こえた。隣を見ると、中年のおじさんが満足そうにビールジョッキをカウンターに押し付けている。口元には白い泡がまだついている。どうやら一気にビールを飲んだらしい。幸せそうに微笑みながら、そのまま串へと手を伸ばしていた。
ビールか。
あまり俺はビールを飲まない。以前、転がっていた空き缶の残りを舐めたことはあったが、苦いだけで不味く思ったのだ。しかし赤ら顔のおじさんの姿を見ていると、案外悪いものでもないかもしれない。
よくよく思い返してみれば、俺が飲んだのは道端に落ちた出涸らしのようなもので、ビールだって出来立てが美味しいのかもしれない。
店員を再び呼び止め、ジョッキビールを一つ頼む。
程なく店員が一杯に入ったビールを持ってくる。黄色い液体の上をクリーミーな泡が覆い、底からとめどなく泡がたっている。その様子を見ていると、やはりこの飲み物は美味いのでは? と思えてくる。
「さて」
どうせ飲むなら、おいしく飲みたい。隣のおじさんはこれを一気に飲んでいた。きっとそれが一番美味しい飲み方なのだろう。俺もそのやり方に倣うことにした。
では一気、と。
「!?!?!?!?」
苦い。ひたすら苦い。けれどその苦味を耐えたら、きっと美味しさを味わえる……。
「ブボっ!」
いや、無理だわ。
よく人間こんな苦いの飲めるな。とても狸の俺では飲めない。
咳き込みながらグラスをカウンターに置く。ジョッキ半分近く飲んだのは、我ながら頑張ったと思うが、もうこれ以上は無理だ。
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