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どうしてこうなった
脇に置いてあった紙ナプキンを手に取ると、咳き込みながら口元を拭う。すると頬が熱くなっているのを感じた。なんだか頭がほてっているような、それでいてなんとなく、体が宙に浮くような感覚を覚える。
もしかして、これが人間のいう『酔い』というやつなのだろうか。
やばい。頭が痛くなってきた。この状態での食事は無理だ。もっと食べたかったが、とはいえ腹は八分目を超えている。潮時だ。
「会計!」
ここはひとまず引き下がることにしよう。店員に案内され、レジに向かうと俺は、ポケットから一万円札を一枚出した。
お釣りを受け取ると、俺はそそくさと店を出た。
そしてそのまま夜の小道を抜け、人気のないビル裏の行き止まりで一息つく。
そしてようやく堪えていた笑いを、顔に浮かべる。
まんまと騙してやった。
狸の俺が金を持っているわけがない。だからあの一万円も本物ではない。葉っぱを変化させた、真っ赤な偽物だ。
全く、人間というやつは節穴だから、こうも簡単に騙される。ちょろいもんさ。
さて、美味いもの食ったし、俺も休むか。
そう思ったところで、酔いが限界まできたのか、視界がぐるぐる回ってきた。
「あ、まずい」
座り込もうとしたが、足がもつれてそのまま転んだ。そしてそのまま気を失った。
ところで狸の胃袋は人間よりも小さい。ということは、人間の腹八分目というのは、狸の限界を党に超えている。さらにいえば体が小さい分、お酒だって酔いやすい。
翌朝、狸姿で目を覚ました俺は、腹を抱えて悶絶していた。
「なんで俺がこんな目に……」
朝の新橋の空気は、とても冷たかった。
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