元カレよ、さようなら。

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『久しぶり、元気してる?』 そうメッセージがきた時、私は嫌な予感がして開いて、それは的中し思わずブロックした はじめからブロックしておけばよかった 元カレからの連絡であった。 むかつきながらシャワーをあび、いい香りのするシャンプーをつけてわしわしと洗う それだけでいやなものが流れていくようだった。 くもった鏡にうつる私の顔は、女のくせにちょっとうっすらひげが生えている 実は男とかホルモンバランスのせいとかじゃなくて女性でも濃いめの産毛みたいなさ あるでしょ、それ。 その元カレが彼氏だったころはちゃんとケアしてた だれももうこんな近くでみないからって色々サボり始めたんだ。 ああ、視界にはいる 風呂場の隅のピンクのカビとか…… なんで一人だと気にならないんだろうね。 風呂場からでて、適当にネットサーフィンをして 動画を見て ……だめだ、指が勝手にうごく 元カレのブロックを解除し、つい見てしまう。 『いきなりの連絡でごめん なんかまた会えたらとおもって』 自分の磨いた歯がぎしりと音をたてる。 会えたらって 今更何?! 彼氏とわかれても友達として会い続ける人って結構多いらしいけど 私はそういう行為を一度でもしたなら、一度でも男女として愛し合ったなら友達になんて戻れないと思ってる。ようは、ずるずると引きずってまたそういう関係になり、彼氏彼女には再びならない 分、前より劣化して無責任になるだけというか 泥沼だよその先は。 それを頭では理解している ろくなことにならないと、大抵元カレから突然連絡がきた場合 散々女と遊んでやっぱり前のが惜しくなったから、とか未練を利用しセフレになるか もっとひどければ高額なものを売りつける詐欺 全部悪いことになるに決まってる。 わかっているのになぜ ブロックしつづけることができないんだろうか そう思いながら眠りにつき、翌朝アラームを確認すると同時に画面上に音をたてて表示され読むことになったメッセージ。 元カレは諦めず、とうとうこんな連絡をよこしてきたのだ。 「冗談じゃなくてほんと会ってほしい 俺もうそんな長くないらしくて 余命一ヶ月なんだ だから最期に大切だった人たちに会いたい」 いやいや 嘘下手かよ 私はさすがに呆れてブロックし、普通に出勤した そんなアホみたいなこと言う人だとは思わなかったんだけど。 ……別れた理由はむこうの浮気だった。 問い詰めたら素直に認めて謝ってきてキレて別れを切り出したらそれも素直に受け入れられた。 なんでフッたのは私なのにまだ未練があるんだろうか そしてなんで終わらせる原因を作ったのはむこうなのに また会いたがるんだろうか あんたじゃなくても世の中男の人なんてたくさんいるんだよ。 バカにしないでほしい。 浮気なんてしない、私だけを見てくれる人も まあそのうちあらわれるっしょ、多分。 丁度よく仕事も忙しくなり、終わってからもわざとバーにいったり、買い物をしたりして元カレの存在を頭から消し続けた。 数カ月後のことだ。 私の玄関前に女の人が立っていた。 よれよれの服、長い髪 見たことがある、元カレの……母だ 「え?え? なんでここにいるんですか?」 「……なんでじゃないでしょ 一言、言いに来たのよケイタは今日亡くなりました あなたのことを最期に言ってました スマホを確認したら連絡も入れていたのに無視をして よく一度付き合った人にそこまで冷たくできるわね ケイタは俺が浮気したから仕方ないていってたけど その程度でこの扱いってもとからあなた本気じゃなかったんじゃないの? ……それだけ言いに来たわ ケイタもなんでこんな冷たい子最期まで好きだったのか……可哀想に」 おかあさん、はぶつぶつと呟いて帰っていった。 ええ……。 とりあえずへんな嫌がらせを家にされたわけではないようだ、あの人ももう私を訪ねにはこないだろう 捨て台詞を吐きにきただけと思われる。 けど、元カレから死ぬかもて連絡きて 信じるやつこの世のどこにいんのよ そしてまじで死ぬやつどこにいんのよ。 冷蔵庫に入ってたビールを飲み テレビをつけて一息つく。 バラエティの内容は、まったく頭に入ってこない。 音だけが言葉と認識できずに耳を通過していく。 いや、ふつーに浮気はいけなくない? 別れるでしょ 死んだらその浮気したってことはちゃらになるわけ? てか、死んだんだ?ほんとに 調べる気力もないけど、あの母の目は愛する息子を奪われたような本気の目だった。 ……変な感じ、付き合ってる状態だったら泣いて駆けつけて、葬式とかにもでて 何度も墓参りして 呆然と生きて仕事すらままならなかったかも でももう、それが元カレというだけで私の人生に関係がなくってテレビの向こう側みたいに他人事。 『久しぶり、元気してる?』 あれにスタンプくらい返すべきだった? 別れたあと、立ち直るために バカ、死ね、とか思ったのがいけなかった? いやいや。 「なにが久しぶりよ 久しぶりにしたあんたが悪いんじゃん」 ……涙もでないや。 ただ、遠い あの頃の日々 たしかに好き同士だった私達 そして終わりを迎えた別れの日 ああ、そうか 別れた日はわんわん泣いたっけ いまは泣かないのに 別れるという行為は、関係性の死なのだ 私が彼を死で失ったのは、今じゃない あの瞬間だったのだろう。 「……さようなら」 誰かのものになったあなたは 生きてようが死んでようが もう関係ないのよ。 恋って…………なんでこうなんだろう あれだけ必死なのに、終わってみればあとに残るものがなにもない 泣きもしない 笑えもしない やりきれない薄暗い感情だけが ずっと体内を渦巻いてる きっと 多分、永遠に。 end
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