鉄砲玉

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「宅ぼん、気持ちは嬉しいが、この話は勢いで決めないでくれ。しおりさんとも相談してくれ」  宅ぼんは握っていたジョッキを、テーブルにドシンと置いた。 「あいつの答えはわかっている。好きなようにやりなさい、と言うさ。いいか、この話を他の奴に持っていくな。これは俺のための役なんだ。ところで、きんちゃん、台詞はあるんだろうな?」  宅ぼんはにやりと笑った。 「ああ、もちろん。ちゃんとエンドロールに役名つきで宅ぼんの名前が出る」 「それだけ聞けば十分だ。さあ、乾杯しようぜ」 「その前に、確認したいことがある。宅ぼんは泳ぎはできるんだな?」 「当た棒よ。こちとらガキの頃は水泳大会で鳴らしたもんだ。潜水もお手のものよ」  宅ぼんの心意気に賭けることにした。  いよいよリンチシーンの撮影の日がやってきた。夜になり、若杉の子分たちがトラックに乗って波止場まで来た。あたりに人がいないのを確かめて、蜂谷をトラックから降ろす。 「おい、蜂谷。間宮のオンナのやさを言え」 「何度聞かれても同じだ。知るか!」 「お前は間宮の運転手をしているんだから、知らんはずはない」 「知らんもんは知らん!」 「よし、海に突き落としてやれ!」  両手を後ろ手に縛られたまま、蜂谷は波止場の先へと歩かされる。波止場の先端に来た。  ここで助監督が、宅ぼんの腰に細い紐をつけた。三回浮上したあと、潜水し、海面が静かになり撮影が終了したら、この紐を引く。それを合図に宅ぼんが上がるのだ。宅ぼんには、万一溺れそうになったらこの紐を引けばすぐに助けに行くと、助監督が言い含めている。そのときは撮影中止だ。宅ぼんは「フィルムを無駄にはせんよ。任せておけ」と笑顔を見せた。 「蜂谷、悪く思うな。やれ!」  子分たちは蜂谷を海に突き落とす。  ザブーン  カメラが海面に寄る。  いったん沈んだ蜂谷が海面に浮かび上がる。  ゲホッ
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