鉄砲玉

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 ところが、一週間後、その日の撮影が終了したとき、俺は五島プロデューサーに呼ばれた。 「浅井君、まだ極秘なんだが、実は川上君は癌が見つかってな。しかも、かなり厄介な奴だ。川上君とも相談したんだが、彼は今回のシャシンは降りることになった」  俺には初耳のことで頭の中が混乱した。一体これからどうなるんだ? 「ただ、ホンもできあがっているし、役者もスケジュールを押さえている。今更中止はできん」  プロデューサーはそこでタバコに火をつけて一服したあと、俺の目を見つめた。 「そこで浅井君に監督を頼みたい」  えっ、と思わず声に出た。 「もちろん、川上君にも許可を貰っている。いや、むしろ川上君が君を押したんだ」  プロデューサーは、点けたばかりのタバコを揉み消した。 「君にとってはチャンスだ。やってくれるな」  俺は即答した。 「はい、喜んでやらせていただきます」  破顔一笑したプロデューサーは、声を弾ませた。 「むろん、多少の変更は相談に乗る。浅井君がやりたいように撮っていいからな」  頭を下げてプロデューサー室を出た。親分には悪いが、万年助監督だった俺には願ってもないチャンスだ。俺の実力を重役連中に見せつけてやる。すぐにアパートに帰って、ホンの練り直しだ。  俺が手直しを考えたのは、クライマックスの乱闘シーンにつながるリンチのシーンだ。  主人公は間宮組組長である間宮進一。その子分蜂谷が、敵役の若杉組組長の子分たちに拉致される。蜂谷は「間宮のオンナのやさを吐け」と拷問を受ける。それでも吐かない蜂谷。深夜海岸に連れて行かれた蜂谷は、両手を縛られた状態で、最後通牒を突き付けられた。「吐け、さもないと波止場から突き落とす。両手を縛られていては泳ぐこともできんぞ」と。しかし、蜂谷は吐かない。怒った若杉の子分たちに、その場でめった刺しにされて、蜂谷は死ぬ。
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