鉄砲玉

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 そして、今日、報道関係者を呼び、さらにしおりさんも招待して。プレミアム上映を行った。上映中の二時間二十分は息が詰まった。  あの海中シーンになると、場内には緊張が走り、俺も体が震えた。死を賭した宅ぼんの演技に、俺は声を出さずに泣いた。隣に座っていたしおりさんはすすり泣いていた。  ラストシーンで、間宮組組長が刑務所で敵の若杉組組長とすれ違う。  間宮が若杉にぼそっと話しかける。 「俺は二十年を食らった。お前は?」 「わしは十八年じゃ」 「そうか。出るときにはお互い年寄りだな」 「まったく。その頃は浦島太郎じゃ」 「もう、ここらで戦争は終わりだな」 「ああ、何のための戦争か、今となってはわからんくなってしまった」  看守が二人に顎で合図をする。 「そっちも元気でな」 「ああ、ムショで言うのもおかしいが、体が第一じゃ」  止まっていた涙がまた溢れてきた。  宅ぼん、見ているか? これが俺の初めてのシャシンだ。お前の名演技があったからできたんだ。宅ぼん、お前は化けたぞ。ありがとうな、宅ぼん。  音楽が流れる中、エンドロールが始まる。 『蜂谷伸夫 海野宅三』の名前を見たとき、涙が止まらなかった。しおりさんは声を出して泣いていた。  最後に画面に文字が流れた。 『撮影中事故死した海野宅三さんに、深く哀悼の意と感謝の気持ちを表します。あなたは日本映画の誇りです。北映映画関係者一同』                  (了)
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