迷い家

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迷い家

その家に招かれたのは、10歳の時だった。尋常小学校4年生だった私は、体が弱く友人と遊ぶことが上手ではなかった。もやし、干物、女の腐ったやつ、などと呼ばれるのがつらくて、ガキ大将の眼を盗んでは裏山に入り、虫取りをしたり都会に住む親せきが送ってきてくれる少年雑誌を読んだりしていた。裏山は私の隠れ家だった。 だから、裏山のことは獣道まで知っているつもりだったのに、私は迷ってしまった。道がいつもよりも薄暗く感じて見上げると、見たこともない大きな木ばかりが空を覆っていた。 「どこだろう」 心細さに虫かごを落としてしまった。戻ろうにも来た道は暗がりの中に消えていて、とてもあそこを歩いてきたとは信じられなかった。 静かだった。虫の音も、鳥や獣の声もなかった。次第に日が暮れて、本当の闇が迫ってくるのが感じられた。 私はへたりこんでしまった。こんなところで夜を明かすなど考えられなかった。 そのとき、何かが僕の足首を撫でた。ドキリとしたがいやな感じではなかった。猫が体をすれすれに近づけてくるように、それは僕の足首を撫でた。 コッチニオイデ そういわれた気がした。 振り向くと、金色の光を放つか細い糸が、何本も絡まりながら揺れていた。糸は長かった。生い茂った下草をかき分けるようにして、糸はつながっている。私は糸をたどって進んでいった。進むにつれて糸は数を増やし、絡まりあい、金色の垣根のように立ち上がった。私はそれに沿って進んでいった。
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