少尉殿

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少尉殿

生まれつき愚鈍な私は、新兵訓練の時から目をつけられて殴られたが、痛みは感じられず、傷もすぐに癒えた。彼女と共生することで得られる不老長寿の力なのだろう。 訓練を終えていよいよ南洋に赴くころには、迷い家からとぎれとぎれに届いていた気配も切れてしまった。 しかし、輸送船に乗ってから、私は濃厚な糸のにおいを嗅ぎとった。それは、迷い家のものとはちがっていた。 ダレカ、イル ノノ子も気づいていた。私以外に、キノコと共生している者が、この中にいる。目を凝らすと、糸が見えた。それは部隊を率いる少尉殿の肩から伸びていた。少尉殿もまた、私のことを見つめていた。 その夜、私は少尉殿の船室に呼ばれた。将校には一室部屋が与えられていたのだ。 「佐々森二等兵、入ります」 「入れ」 「少尉殿、何の御用でありますか」 少尉は、椅子に深く座り、私を頭からつま先まで眺めまわした。少尉の視線とは別に、何かの気配も私を撫でまわした。 「ふん。貴様、連れているのだろう?」 「はい?」 「肩を見せてみろ」 私はシャツを脱いで上半身裸になった。ノノ子は身を縮めて表には出てきていない。 「大丈夫だ。出ておいで」 少尉は優しく話しかけると、自分もシャツを脱いだ。少尉の右肩がむくむくと盛り上がった。肩から白い毛糸くらいの太さの糸が無数に出現し、レースのように編みあがり少女の姿を作った。少尉の連れているキノコだった。それにつられて、ノノ子もぽこりと顔を出した。
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