帰郷

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帰郷

私は、生き延びることができた。復員船に乗り込んで、日本の港に着いたとき、ノノ子が叫び声をあげた。 〈ナイ。ナイヨ。イナイヨ。〉 迷い家のことだ。私にも、気配が全く感じられなかった。 私の村は滅びていた。米軍の爆撃機が何かのはずみで落とした数発の爆弾が、村を直撃した。村人は散り散りになっていた。私の家族も亡くなっていた。 ヨシタケさんからそう聞かされた時、私は家族のことよりも迷い家の方が気になっていた。 「爆弾は、村にだけ落ちたのですか?」 「いや、周りの山もだいぶ焼けたようだね。どうして?」 「いえ・・・」 私は村の跡を訪れることにした。いや、本当の目的は、迷い家の消息を知ることだった。二十年近く会うこともなかった家族よりも、肉体を共有しているノノ子の悲しみが、より深く心を浸していた。 村の跡地に合掌した後、私は裏山に入った。 〈コッチ。コッチヨ〉 ノノ子が導く方に歩く。荒廃した山道の先に、大きく地面がえぐれた場所があった。 「ここかい?」 〈ソウ〉 ここに、迷い家があった。私は彼女の本当の姿を見たことがなかったが、大きな柏の木の元に身をひろげているサルノコシカケのイメージが、胸に広がった。
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