ヨシタケさん

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「うむ。菓子を食べてはないからな。兆しは見られん。しかし用心するに越したことはない。村はずれの土蔵に入れておこう」 私は土蔵に投げ込まれた。しばらくすると、母と祖母がおにぎりと水筒を差し入れてくれた。 「おまえ、なんてことをしたんだ」 と、母は泣いていた。 「母ちゃん、どうなってるの?」 「お前は悪い種をもらってきたんだよ」 悪い種・・・。何のことだろう。 「わしらがちゃんと伝えてなかったんが悪かったんじゃ。まさかあんな山奥にまで入り込むとは思わなんだ」 祖母も泣いていた。 「でも、菓子は食べてはないんだろ?」 母が強い口調で尋ねた。 「うん」 「じゃあ、許してもらえるかもしれんな」 祖母が独り言のようにつぶやいた。村の集会所では私の処遇について男たちが話し合っているという。 「こら、近づくな」 母と祖母を叱る声がした。二人が土蔵を離れていく足音が聞こえた。 私が心細くなってしくしくと泣いていると、声のようなものが聞こえた。 泣カナイデ ダイジョウブ 金色の細い糸が、見えたような気がした。糸が私の頭を撫でてくれているように感じた。これが、種なんだろうか。でも、とてもやさしい。私は糸に撫でられながら眠りについた。
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