出征

1/2
前へ
/15ページ
次へ

出征

月日は流れていき、日本は戦争の時代になった。一度は徴兵検査に落ちた私に召集令状が来たとき、ヨシタケさんは 「いよいよ戦局もくるところまできた」 とため息をついた。再婚もせずすっかり初老になっていたヨシタケさんを残していくのは忍びなかったが、どうしようもないことだった。 「それよりも、いいのかい?」 ヨシタケさんは真顔で聞いた。 「え?」 「キノコにだよ。あいさつしなくていいのかい? 時々来ていただろう。金色の糸が、みえていたよ」 ヨシタケさんにも見えていたようだ。 召集令状が来てから、キノコからの声は頻繁になっていた。 イッテシマウノ? イッテシマウノ? 「会ってくれるでしょうか」 「さあな。行ってみないとわからんだろう」 召集の日までは時間があった。私は人目を避けてそっと故郷の近くまで戻り、山道にはいった。会うつもりならば呼んでくれるだろう。 果たして。 金色の糸が伸びてきた。私はそれをたどって、山の奥へを踏み込んだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加