配信者と犬

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 リアルわらしべ長者企画で成功する配信者がいる一方で、肝試し企画で散々な目に遭う者もいる――そんなお話です。 ・多くの犬を殺し、犬神の呪いで滅んだとされる集落に、配信者が肝試しに訪れ……。  多くの犬を殺したため犬神の呪いで滅んだとされる集落を肝試しのために訪れた配信者は、いきなり熊に襲われた。巨大な爪に引っ掛かれ、血だらけになって助けを呼ぶが、実況を見ていた連中は大笑いするだけである。ハプニングのおかげで大いに盛り上がった配信は、熊がスマホを配信者の右手と一緒に噛み砕いたので終わった。次は首をがぶりと噛み、配信者が息絶えて、万事終了! かと思ったら邪魔が入った。前述した犬神が登場し、熊を追い払ったのだ。もっとも、配信者を助けようとしたのではない。 「わしの領土に入る間抜けは絶対に許さん。お前も死ね」  犬神は配信者の頭をくわえ、前後左右に振り回した。ただでさえ不足気味である配信者の脳と血が宙を舞う。 「あわわ、お助け、お助けぇえ!」  命乞いする配信者を犬神は地面にたたきつけた。配信者は大きくバウンドし、頭から地面に落ち、ふかふかの濡れ落ち葉の小山に突き刺さる。今度こそ死んだかと思われた配信者だが、まだ息があった。這って逃げようとする配信者の左足を犬神が噛む。それでも配信者は逃げようとしたので、左足首から先がグシャグシャになった。だが、配信者のハイハイ速度は衰えない。赤ん坊も吃驚のスピードだ。  犬神は感心したようだ。 「お前はセンスがあるぞ。二本足は廃業して四つ足になったらどうだ」  配信者は木によじ登りながら下を向いた。巨大な犬が自分を見上げている。ショッキングな出来事が連続しているので感覚が麻痺していたが、自分の足元にいるのは人の言葉の話す犬つまり犬神であることにようやく気付く。  配信者は残念がった。 「ああ、これを配信できたら、有名人になれたのに」  犬神は面白がった。 「お前は配信者の鑑だな」  配信者は懇願した。 「そう思うんだったら見逃して下さい」  犬神は嘲笑った。 「見逃すかよ、食い殺してやる」 「んわ~ん!」  泣きながら配信者は大小をお漏らしした。下にいた犬神がパッと逃げ去る。 「臭すぎるぞ、お前!」 「そんなこと言ったって……」 「犬神の神域を穢した愚か者に罰を与える! そんなに有名人になりたければ、たっぷり痛めつけられて来い!」  犬神の呪いで配信者は異世界へ飛んだ。 ・王家の番犬と称される侯爵家。しかしその嫡男は、現在の王家に反感を持っており……?  異世界に転生した配信者は王家の番犬と称される侯爵家の嫡男の元を訪れ、質問した。 「現在の王家に反感を持っていると聞きましたが、そうなのですか?」  侯爵家の嫡男はブチ切れた。 「どこの馬の骨なのか分からない奴に、そんなこと話すわけないだろう! こいつを番犬の餌にしろ!」  家臣たちは配信者を番犬を入れた小屋の中に放り込んだ。凶暴な番犬たちは配信者を数秒で食い殺した。食い殺された配信者は瞬時に別の異世界へ移動した。 ・お互い犬の散歩中に会う彼のことを好きになったけど、犬同士の仲が最悪で話もできない!  続いて配信者は仲が最悪の犬同士の間に転移した。不仲の犬たちは目の前に突如として現れた不審者に激怒し、協力して襲い掛かった。飼い主たちが必死で止めたが、配信者は噛み殺された。  邪悪な配信者を八つ裂きにしたことで、不仲だった二頭の間に強い絆が生まれた。その飼い主の間には深い愛情が生まれた。  これらの様子は犬神の社会にインターネットで配信されていた。非常に評判を呼び、配信者は犬神たちの中で知られる存在となるに至った。念願だった有名人になれたのである。  だが、その栄誉を配信者は知らなかった。彼は今、無人の昭和基地にいる。彼以外の者は誰もいない。いや、犬はいた。南極越冬隊に置き捨てられたタロとジロだ。犬神の呪いで何度死んでも生き返る体質に変化した配信者は、南極の厳しい冬をタロとジロが生き延びるための餌になるよう送り込まれたのだった。何回食べても再生する配信者に、タロとジロは大喜びだ。今日も配信者をガブガブ噛む。その様子もインターネットで犬神たちの社会に配信されている。視聴する犬神たちも満足そうだ。  タロとジロに追いかけられた配信者は真冬の南極の雪原を走り、絶叫した。 「誰か、助けてー!」  助けは来ない。二匹に追いつかれた配信者は何度もしつこく噛みつかれ穴だらけになった。いくつも開いた穴から垂れ流された穢れた血が純白の雪原を汚す。それに激怒したわけではないだろうが、タロとジロは激しく興奮し、配信者の両手を左右から噛んで引っ張り、遂に全身を真っ二つにした。  視聴していた犬神たちから歓声が上がる。  左右に別れた配信者の体を食べ尽くし、タロとジロはねぐらへ去って行った。明日になれば配信者の体は復活する。追っかけっこの再開だ。南極の冬は寒いけれども、追っかけっこですぐ暑くなる。
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