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魔女の弟子ルーナの覚醒
「あんなに自信がなくて大丈夫かい」
「暗いねぇ」
「才能ないんじゃないか?」
そんな言葉をよく聞いた。そのたびに身を縮こますルーナを師匠の大魔女セレーネは明るい自信に満ちた声で救い上げてくれるのだった。
「ルーナは、すごいんだから! 心配ないわ。私の目に間違いはないの!」
いつだってその言葉に応えたかった。彼女のようにたくさんの人の心を救う仕事がしたくて、探して、探して、やっと見つけて弟子入りして7年。自信がなかなか持てなくて、まだお客さんの顔もちゃんと見れないけれど、願いはずっと変わらない。
お菓子に魔法を籠める修行をしながら自分の関わったお菓子を食べて笑ってくれた人達を思い出す。……うれしい。
「!」
生地をかき混ぜていたボールに振動を感じたのと、生地がググっと盛り上がって巨人になっていくのはほぼ同時。すぐにボールを支えきれずに尻もちをつくことになる。
「え……」
驚いているうちにパンケーキの生地でできた巨人は天井を突き破って声にならない声を放った。お菓子を封じたシャボン玉が飛んでいく。茫然としているルーナの横にセレーネが立った。
「覚醒、おめでとう、ルーナ」
「?」
「夢にお菓子を届けて、しあわせな夢を見せる魔法だよ。ルーナだけの魔法。おっきいねぇ……たくさんの人があったかい気持ちを灯せるよ」
自分だけの魔法。一人前の魔女と名乗る資格を得た。わっと泣き出すルーナの頭を魔法で浮かんだセレーネが撫ぜる。魔法が降り注ぐ月の夜。誰もがしあわせな夢を見れますように。
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