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「なんでこんなこと羽目に。」  先ほど上司に叩かれた頭をさすりながら、誰もいない部屋で俺はそう独りごちた。  先ほど、居眠りしてしまったところを上司にぶん殴られたのだ。この上司はパワハラがひどく、暴言暴力は当たり前、大量の仕事を押しつけて自分だけ退勤する、などは日常茶飯事だった。しかも、現在進んでいる大きなプロジェクトの総責任者に選ばれてから、その傍若無人さは加速していた。 「食っちゃ寝てばかりいるとか、お前は動物以下のクソ野郎だな」  俺が眠いのは、お前のサボりをカバーするために寝ずに仕事をしていたからだろうが、と愚痴を飲み込みながら、頭を下げる。 「す、すみません」 「チッ、だからそんなデブなんだよ。もっと人間らしく生産的な生き方をしたらどうだ」  生産的な生き方というのは、お前が仕事も大してせずに、女と遊び歩きに行くことをいうのだろうか。どちらが動物的で欲望に忠実な生き方をしているか分からない。それに俺は、それほど太っていない。 「まあ、サボった罰だ。俺の代わりに仕事をしてもらおう。俺が今日の昼前に予定してある会社の採用面接をやってこい。俺は他にやることがあるからな。ああ、だからといってもちろんプロジェクトでの先方との交渉の調整や準備もサボるんじゃねえぞ」  そのまま上司は、面接の仕事を押しつけてどこかに行ってしまったのだった。  そんなわけで俺は、会社の受付に入社希望の子がやってきたら、時間に入ってきてもらう様に通達し、自分は面接室にやってきたのだった。  とはいえ、面接に来る子はいったいどんな子なのだろうか。この会社は、地域での知名度はそこそこだが、特段人気のある会社でもない。そもそも、このド田舎の環境を嫌って、抜け出していく若者も少なくない。珍しいな、と俺は思った。  そんなときコンコン、とノックの音が鳴る。もう時間か。一つ伸びをして扉の向こうに声をかける。 「どうぞ、お入りください」 「失礼します」  入ってきたのは、丸顔のかわいらしい女の子だった。 「・・・・・・」 「あの・・・・・・?」 「ああ、失礼しました、おかけください。」  そう彼女に促して、俺も席に着く。 「・・・・・・それでは面接を始めましょうか」
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