狐の嫁入り

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之助と白輝は、村を後にして、狐の里へ到着した。里に着くや否や、ある狐に呼び出され、狐の里でいちばん大きな宮殿のような場所に行った。そこには、尻尾が9本に分かれた九尾と呼ばれる大きな狐が、王座に君臨していた。そして、狐の姿のまま、人語を発した。 「御主が之助か。おい娘、何故まだ人間の姿なんじゃ。早く狐の姿にせんか」 「主様、ごめんなさい。之助さんを狐にすることはできません」 「なんだと?お前、私に逆らう気か。それがどうなることを意味するか分かっておるな?」 「ええ、承知の上でございます」 「フッ、お前にしてはよく覚悟が決まってるじゃあないか、よし、ならば望み通り」 「ちょっと待ってくれ!!!」 之助はそこで、大声で割り込んだ。 「ああ?」 「白輝!私を、狐にしてくれ」 「え!?」 白輝は、驚いたように口を開けた。 「いいん、、ですか?」 「ああ、そうすれば病も治るんだろ」 之助は里に来る前に、白輝に本来の目的、あの日、何故之助に声をかけたかの真意を聞いてきた。 之助と出会ったのはあの境内での出来事であり、それは間違いない。そこで、之助に手当され白輝は目をつけた。狐が求める陽の因子を持ったポジティブで強い男だと確信したからである。しかし、助けられた思いと、之助の生い立ちや現状を知り、好意が芽生えてしまう。本来なら、一度、里へ連れてきた時に、その病を直せる医者がいるという口実を作って、狐にするつもりだった。しかし惚れてしまった白輝にそんな騙すような真似は出来なかったのだ。実際問題、狐になれば、全ての人間の病は治るのである。その代わり、人間には一生戻ることは出来ない。 「でも、一生戻れないのですよ!」 「それでもいいよ。君といられるならそれでいい」 「、、わかりました」 之助は、覚悟を決めて、目をゆっくりと閉じた。それが人として瞼を閉じる最後の瞬間だった。 之助は人ではなくなった。そして、狐として一生を生きていくこととなった。 今頃、元いた村では私が狐隠しに遭い、狐にされ、哀れまれたり、悲しまれたりしているかもしれないと之助は思った。これまでも、そのような狐隠しにあったものはいて、不幸になった者もいるだろう。しかし、之助は幸福であった。なぜなら、本当に愛してくれる白輝という存在に出逢えたからである。それだけで、之助は満足だった。男は最後に愛を知れたのである。 狐の里の宮殿では瞬く間に白輝と之助の噂が広まっていて、女狐達の話題はそれに尽きなかった。 「結局、あの生真面目そうな人間の男も私たちの仲間になったのねー」 「でもあの子に人を騙す才能があったなんてね!いやはや私達も狐だけど狐は怖いわ!」 そう言っている女狐達にもう一匹の女狐が会話に加わった。 「何言ってるのあなた達。あの子の目をちゃんと見た?」 「どういうことよ?」 「私は人に化けたことも多いし、人の世で何年も暮らしてきたから分かるけど、あの子の目、本当に人間の女のような目をしていた」 「ってことは騙したんじゃなくて、本当にあの子はっ、、、!」 「そうよ。だって、あの目の輝きは、私たち狐には出来ないものだもの」 之助と暮らす白輝の目は、真珠のように毎日輝きを放っていた。白輝は毎日が楽しくて幸せだった。狐もまた、狐が知ることの出来ぬ、人間の愛を知ることが出来たのである。
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