ぼくらはスカートが穿きたい

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「うーん、ブラウンもお洒落で捨てがたいけど、この服的にはやっぱりワインレッド? アキラちゃんはどう思う?」 「は、はぁ……」  叔父さんは店に着くなり、嬉々とした様子でシューズの履き比べをした。舞台衣装も扱ってる専門店だからか、店には様々な色のシューズが取り揃えられていた。叔父さんはニコニコ笑いながら、腰に手を当ててポーズを決める。目が覚めるような黄色のスカート(・・・・)がベールのようにシューズにかぶさった。 「あの、なんでスカートなんですか?」 「可愛いからに決まってるじゃん」 「叔父さんってもしかしてトランスジェンダーだったんですか? それとも女装家? マツコ・デラックスみたいな」 「なんでそうなるの? 僕は男としてスカートを穿いてるんだよ。アキラちゃんだってパンツを穿くでしょ?」 「でも普通、男の人はスカートを穿かないです」 「そりゃそうだ。僕は普通の男ではないからね」 「それじゃあやっぱり……」 「そう、スカートが穿きたい男なのさ!」  待って。ぼくが言おうとしたのと違う。 「まぁ、トランスジェンダーとか女装家とか、知ってる概念に当てはめた方が理解しやすいのはわかるよ。でも僕は心身ともに男だし、男に生まれたことを誇ってる。その上でスカートが穿きたいんだ。女の人が格好よくパンツスタイルを決めるように、男のファッションとしてスカートコーデをしたい」 「変ですよ、そんなの。スカートは女のものなのに」 「どうしてそんな風に思うんだ?」 「だって、町中で見たらぎょっとしますよ。電車の中でもみんな凄い目で見てたし。形がもう女の人って感じだから」 「それじゃあ袴は?」 「え?」 「形はスカートみたいなものだよ。袴を着た人は女ってイメージある?」 「それは……将棋や弓道やってる人は着てるから……」 「ね? 男だってスカートのシルエットが似合わないことはないんだよ。違和感があるのは先入観があるからさ」 「そんなの屁理屈ですよ。スカートと袴はまた違うし」 「じゃあ聞くけど、スカートを穿いた僕は似合わない?」  叔父さんはその場でくるりと回った。さすがプロのダンサーというだけあって軸が全然ぶれない。ふわりと舞い上がったドレープスカートの裾が綺麗な大輪を咲かせて、つぼみのようにねじれながら閉じた。たったそれだけなのに、目が離せなくなるほどのオーラが凄い。そっか、この人は本物の表現者なんだ。家にいる時はお父さんによく似た普通の男性でしかないのに、スカートを穿いてひと回りしただけでスポットライトを浴びるかっこいい人になってる。  胸の中で何かがごそりと動く。急に顔がかぁと熱くなって、ぼくは叔父さんから目をそらした。 「似合ってるとは思います。叔父さんは若々しいし、骨格も女みたいに細くて、顔立ちも中性的だから」 「まぁ確かに、僕は女装しても様になるような体つきではあるかな。ラガーマンみたいな大男よりは少ない努力で着こなせるかも」 「お父さんもそうですけど、うちって塩顔で、良くも悪くも特徴が薄いから、メイク映えもするし男でも女でもなれるのかも」 「なるほど。さすが女子高生の視点は含蓄があるなぁ。今までなんとなくでスカートを穿いてたけど、いい感じだって思えたのにはそういう理由があったんだ」  叔父さんはワインレッドのシューズでモデルのようにスタスタ歩いて、姿見の前に立った。他に客がいないことをいいことにステップを踏んでイメージを膨らませてる。いつものことなのか店員さんも気にしてないみたいだ。  ああ、本当に存在感が凄い。この人がステージに立ったら、きっとソロで踊っても場が持つんだろうな。知らなかった。お父さんが変人だって叔父さんを嫌ってたせいで、ダンスを観に行ったことはないんだ。
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