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「どうやったら、叔父さんみたいになれますか? ぼくもオーラが欲しい……」
「オーラ? 僕は僕らしく在るだけだよ。もしかして眩しいのかな?」
「眩しい?」
「アキラちゃん、アイドル活動、無理してるんじゃない? 男の子になりたい系を演じるの、ちょっと辛そうに見えるけど」
「そうですか?」
叔父さんはぼくに目線を合わせてうんと頷いた。
「ねぇアキラちゃん、どうしてアイドルになろうと思ったの? どうしてもやってみたいって兄さん達を説得したって聞いたよ」
「それは……キラキラの衣装を着て、可愛いって思われたかったから」
「やっぱりそうだよね。本当はパンツよりもスカートが穿きたい。違うかな?」
そんなの……そんなの、決まってる。ぼくは心も身体も女で、可愛いって言われたい。普通の女の子として皆の前に立ちたい。
でもそんな本音を口にしたら負けだ。男の子になりたい系で勝負するって選んだのはぼくなんだ。今更否定したところでファンの人達を裏切ることになるし、また配信の視聴者数が一桁になるのは辛すぎる。キャラ付けをやめるわけにはいかないんだ。
「そんな簡単に答えは言えないか。だったら一度、アキラちゃんが一番ワクワクする衣装を着てみる?」
「え? 衣装を?」
「見ての通り、ここではステージ衣装も取り扱ってるんだよね。アイドル系もあるから、試着させてもらおう!」
「試着だけなら……」
叔父さんが店員さんに合図すると、アイドル衣装のコーナーに案内してくれた。そこにはびっくりするほどバリエーション豊かなスカートの衣装がラックいっぱいに展示してあった。圧倒的なキラキラのオーラに思わずため息が漏れる。
「とりあえず色々着てみて、どうしたいか考えるといいよ。僕はここの常連だから、遠慮しなくていいからね」
「そう、ですね……。そうします」
まずは手前にあった赤くてポップなものから。次に青のドレッシーな衣装、その次はスパンコールいっぱいのキラキラワンピースを。それぞれに袖を通して試着室の鏡の前に立ってみる。
凄く、可愛い……。
ぼくに似合ってるかどうかは置いておいて、お人形さんみたいな衣装に胸が高鳴る。憧れをまとった自分を見てるうちに、心のメッキが剥がれていく感覚がして恥ずかしくなった。
「やっぱり凄く似合ってるよ! 背が高くてスタイルがいいから、どの衣装でも着こなせてるね」
セーラー服風の赤と紺のドレスを着たぼくを見て、叔父さんも店員さんも満足そうに頷く。こんな服が着られるなんてと、頭がふわふわするほど夢見心地だった。でもふと衣装の上に乗っかった自分の顔を見たら、夢から覚めたみたいにその気持ちが消えていった。
「駄目です、こんなの……。可愛いのは衣装だけ、ぼくの顔に全然合ってない」
ボーイッシュな塩顔。確かにシルエットは綺麗に出てるけど、これじゃあアイドルっていうよりマネキン人形だ。やっぱりプロデューサーの言ってた通り、ぼくの場合はクールな服の方が断然似合う。
悔しい。もっと小さい背で生まれてれば。もう少しだけ女の子らしいぽてぽてとした丸顔だったなら。
「顔立ちなんてどうにでもなるよ。アキラちゃんが言ったんじゃない。塩顔で特徴がないから、メイク映えもするって」
後ろから覗き込んだ叔父さんが柔和に微笑む。家にいる時とは違うダンサーの表情をしてる。
「やっぱりアキラちゃんはとても女の子らしいね。自分の中に理想の女の子がいて、その子になりたい想いがとても強い。僕なんかよりずっと拘りが強くて素敵だ。だったら叔父さんとしてひと肌脱ごう」
「ひと肌脱ぐって?」
「それは帰ってからのお楽しみかな」
叔父さんは店員さんに声をかけて、何やら書類にサインした。それからぼくを着替え用のブースにそっと押し戻して、カーテンを閉めた。
「それ、一週間レンタルすることにしたから。続きは家でやろう」
「え? レンタル?」
「一着だけなら大した額じゃないから。ライブで着たかったら着てもいいよ」
「あの、どうして……」
「いいからいいから。こういうことは大人に任せなさい!」
叔父さんはそう言うとブースから離れていった。任せるってどういうことなんだろう? とりあえず、借りた衣装を慎重に脱いで可愛げのない普段着に着替えた。
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