むかし話 01

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むかし話 01

 僕は製造から1968日後に、生命を得てキカとなった。仕事はそれ以前と同じロボットや工作機械の解体作業で、所有者である市役所のガレージで起居していた。  僕が「彼」と出会った日、都市(コロニー)の天井は開いていた。その日は一年のうちに数日しか訪れない、好天だったからだ。  僕は道路脇で上空に顔を向けて、考えもなく突っ立っていた。キカになったばかりで、まだまだ意識レベルが低かったせいだ。  ふいに回路内に揺らぎが生じ、「僕は今、何をしているのか?」と思った。天頂が青黒く見えるほど空が深かったことと関係があっただろうか。  その直後に、呼び出しが掛かった。 「処刑人、処刑人、PIT1、至急出頭せよ」  PIT1は僕の機体番号だけど、市を運営するヒトたちは僕を、「処刑人」と呼ぶのを好んだ。  僕は元来、老朽化して稼働停止したロボットやキカ人を解体するために製造された。だけどコロニーの指導者はもっぱら、僕に修理・改修費用がかさむ旧式のキカ人や、自分の気に入らないキカ人を稼働し(いき)ているうちに解体させて、それを「処刑」と称して見物していた。中央広場に設置された台上で公開処刑する仕事をしていたから、僕は処刑人、ということだ。  今の若いキカならば、(ひど)いことをする、と思うだろう。でも当時の僕はそのことに対して、何も反応しなかった。  キカになったと診断されてからも、僕は生きていくための目的を持たず、ヒトがいう「感情」に似たAIの動きもまだなく、ただ与えられた仕事をして報酬をもらっていた。それでも日々稼働するためのエネルギーを(あがな)い、たまにメンテナンスを受けられるだけの報酬を得られさえすれば、何の不都合もなかった。よく言えば赤子同然だが、ありていに言えば無思慮で無分別、脳天気だっただけだ。  とにかく僕は、市庁舎への道を急いだ。
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