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キカ人
ペイタ長老の物語を進める前に、当時の情勢について説明をしておく。
今から数百年前、ヒト同士の争いごとによって地球の荒廃が進み、人類はコロニーと呼ばれるドーム都市内での生活を余儀なくされた。同時に人口の大幅な減少による深刻な労働力不足が生じた。それを補うために高度な人工知能の開発が進められ、種々の労働を行う多種多様なロボットが大量に生産された。生身の肉体を持つヒトよりも、機械の身体を持つAIの総数が数倍上回ったのだ。
いつの頃からか、高性能ロボットのごく一部に自意識を持つ個体が現れ始めた。創造主たるヒトは混乱しながらも、無機物の機械に「生命」が発生した、という事実を認めた。ヒトは、「生きていない」ロボットと区別するため、それら「生きている」個体を機械人と呼んだ。
今ではキカ人にも人権があり、ヒトに無償で使役される機械奴隷ではないと誰もが認識しているが、ペイタ老の若かりし頃は違った。キカ人は家畜と同じか、それ以下の扱いを受けていた。人々の間で「暴君」と呼ばれた指導者、「ネタナ・F」が、キカ人の権利を断固として認めなかったからだ。
だがペイタは――いや、キカ人たちは――ほどなく、大きな変化を迎える。物語の続きで、キカ人の歴史に名を残す「彼」こと、ヒーイットが間もなく登場するのだ。
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