一、訃報

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一、訃報

たった今、美樹(みき)訃報(ふほう)が届いた。 水野美樹(みずのみき)。高校の同級生、私の大切な友人、享年61歳。この世を去るには、まだ若いと言われるだろう。 肺炎で、あっという間に亡くなったとのことだった。 通夜と告別式の日程を、美樹の息子さんが受話器の向こうで淡々と伝えていた。 一つ一つを反芻しつつ私は、二階の自室のドアを開けた。午後11時にもなると近隣からの明りも届かず部屋は暗い。 天井灯のスイッチを押す。部屋の明りがともる。 いつものことだが、窓ガラスの右下から美樹がこちらを見ている錯覚を覚える。 この家で一人暮らしになってから30年ほどたつが、この瞬間は毎回ドキッとする。 その正体は窓ガラスに映る人の手形なのだ。 暗闇を背景にしたガラス窓に指紋が白く浮かび上がる。 それは、今から43年前に美樹が、窓ガラスに手を当てたときに着いたものだ。それが、いまだに窓に残っている。 人の顔ではないが、手形もあまり気持ちのいいものではない。 すぐに拭き取ろうとも思ったが、なぜか今まで残している。
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