三、下校のひと時

1/1
前へ
/14ページ
次へ

三、下校のひと時

記憶も43年前に戻る……。 私たち仲良し三人組が、学校からの下校途中だった。 ちょっとした山の中腹に校舎があるので、登校は文字通り登り、下校は道を下る。 周りは農家で、実に穏やかな環境の学び舎だった。道を下りきった所に国鉄(こくてつ)(今のJR)の駅がある。大半の生徒はそこから汽車(当時はディーゼル機関車だった)で街の駅との間を通っていた。 下り道の中ほどだった。私たちの後方から、男子が三人スタスタと歩いてきた。 「おう、水野たちも帰りか、一緒に行こうぜ」 男子グループの八村(はちむら)がにこやかに言った。ちょうど10月の中間試験が終わった日だったので、彼らも解放感から気軽に誘ってくれたのだろう。 高校三年間で初めてだった。グループ同士とはいえ男子と下校するなんて。 女子三人、男子三人なので自然とペアが三組できて道路の右端を歩いた。 先頭は、水野美樹と声を掛けてきた八村陽介(はちむらようすけ)。 その後ろに寒川京子と津田孝則(つだたかのり)という男子が続く。 最後尾は、私と佐々木航(ささきこう)。爽やかなスポーツマンタイプの男子だった。 最後尾の私は、全員の様子が見て取れる位置にいた。隣にいる佐々木と話すというよりは、美樹や京子がどう行動するか、興味深く観察した。 美樹は、『八村君、八村君』と積極的に、八村に話しかけている。八村も明るいタイプのようで、臆することなく楽しそうに話していた。美樹の顔が紅潮している。八村に気があるのだろうか。 それに対して、京子と津田のペアは、逆だった。津田が京子に訥々(とつとつ)とだが話しかけている。京子は、時々相づちをしているが、話題を広げようという気はないようにみえる。京子から声を発することはないようだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加