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六、逆襲の咲子
うすぼんやりと闇に浮かび、その長い髪から女性のようだ。
テレビや映画ではここでキャーと悲鳴をあげるのだろうが、そのときの私は喉が硬直していた。息すらできない。しかし、恐怖というよりは驚異で一瞬体が体が固まったのだ。数秒後、持ち前の好奇心が私の体を包んだ。
「あれは、何?」
呼吸が戻ってきた。深く息を吐き新しい空気を吸い込むと、脳も働き出す。
大抵の人は『お化け!』と叫び腰を抜かす状況だろう。しかし、私は常々心霊現象や狐狸妖怪の類は、恐怖心に捕らわれた人の錯覚であると断じている。
その正体を確かめるべく、ゆっくりと窓に近づいた。
窓に浮かぶ顔が目を見開いて慌てたような表情をする。あの慌てるときの顔は……美樹だ。これは、美樹の悪戯!
全てを悟った私は、逆にこちらの悪戯心が出て窓のお化けに逆襲することにした。
私は、ゆっくりと眼鏡を外して、風呂あがりの髪をかき乱し、両手を開く。指は、鍵のように曲げ、目一杯異様なうなり声をあげた。そのまま、窓の顔に向かって突進した。
「ぐおおおおお」
我ながら恐ろしい声だ。
「きやあああああ」
ついに窓の顔が悲鳴をあげて、下を向く。
私は更に観音開きの窓を開いた。
そのとき女性が自分の顔をかばうときに掌が窓ガラスに触れた。白い指紋がくっきりと窓についた。
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