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案内人の言うとおり、車は程なくして止まった。
「少々お待ちを」
案内人がそう言った後、ドアの重たい開閉音が聞こえ、周囲が小さく震えるのを感じた。
それから今度は僕の真横でドアの開く音が聞こえ、冷たい空気がふわっと流れ込んできた。
「手を。目隠しを取るのはもうしばらく後になりますので」
「あ、はい」
僕の差し出した手を軽く握った手はシルクの手触りだった。
恐らく手袋をしているのだろう。
彼に導かれ、僕はゆっくりと乗せられていた車から降りた。
そのまま、案内人の注意を受けながら、ゆっくりと歩を進めていく。
つまずいて転んだぐらいでどうなるものでもないが、せっかくの洋服が汚れると言うのもあまりいい気はしないものだ。
案内は手慣れたもので、僕の歩幅やテンポに合わせてくれてとても歩きやすかった。
「お待たせいたしました」
そう言って、案内人は足を止めた。
そう言われても今の状況が分からないので何とも言えない。ただ、僕と案内人以外に複数の人間がいるのは感じられた。
「目隠しを外させていただきます」
「あ、はい……」
案内人の気配が背後に移動し、頭を締め付けていた感覚が緩んだ。
それと同時に目に差し込んでくる白い光。
「うわっ……」
「お気をつけて。この部屋の光は蛍光灯程度ですが、先ほどまで目隠しをしていたので少々刺激が強いかもしれません」
すぐに慣れます。そう僕の耳元にささやき、案内人の気配が遠のいていった。
背後でドアの閉まる音がして、僕は室内に複数の気配とともに残された。
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