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今日の空に浮かんでいる月はどんなだろうか。
僕はふとそんな事を考えていた。
頬に触れる冷たい感触から、それがガラスなのは分かった。
そして、エンジン音。間違いなくこれは乗用車だ。
車種は分からない。乗せられる前に僕は目隠しをされてしまったからだ。
窓の外を見ようにも当然何も見えない。乗る前に夜だったことはわかっているので、曇っていなければ空に月が出ているだろう。
体にかかる力や振動で、一応どういう状態なのかを推理することはできるものの、視覚に頼れないと言うのは実にイライラするものだ。
もうどれぐらい乗っているだろうか。
感覚を一つ遮断されるだけで、意外と他も狂うもんだなと思う。
「まもなく到着です」
そんな僕の気持ちを察したのか、そんな声が耳に届いた。
多分僕をここに乗せた人だろう。
名前も知らないけれど、彼はいわゆる案内人ってやつで、到着した後には別な人が待ち受けているのかもしれない。
考えても仕方ないことなので、取り急ぎ僕は考えるのをやめた。
時が来たときに決してパニックにならないよう。まずは心を落ち着けるべきだ。
早鐘のように高鳴る心臓を、一生懸命抑え込もうと僕は深く息をした。
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