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チャプター9
「お、話がわかるねえ」「あーもう、いい、この話題はこれで終わりだ」
同胞の出現に弾はさらに調子に乗る。このままだと延々と下ネタ満載のコントがつづくと察して公彦は自分自身を落ちつける意味もあってそう告げた。
「で、大変趣味のいいこちらの御仁が紹介したいっていう」
「趣味云々はともかく、そうだ」
「活志っていう、まあマフィアみたいなもんを主に趣味兼仕事にして生きてる、よろしくな」
公彦の肯定を受けて、活志が初対面の人間にしてはいけない挨拶の筆頭のようなせりふを吐いた。
「へえ、マフィア、カッコいいね」
が、弾の神経もふつうではない、あっさりとそれを受け入れる。
「にしても意外だな、公彦。お前ちょっと悪っぽい奴はあんまり好きじゃないだろ」
半円状のソファの中央に腰をおろす公彦に弾が好奇の目を向けた。
ん、まあな、と公彦は歯切れの悪い口調で応じる。何しろ出会い方が出会い方だ、軽々しく話せるようなものでもない。
先だっての活志の行動に触発され、ふと中学を卒業して以来、疎遠になっている友人のことを思い出した。名前を厚史という。ちょっと気弱なところがあって、なんとなく雰囲気でからかわれる対象となりやがてはいじめの標的になった。
“誰かに理不尽なことに遭わされるのが死ぬほど嫌い”な公彦は、義憤からではなくみずからを守るような気持ちで厚史を助けた。主導しているグループのスクールカーストの上位にいる野球部員をひとりのところを見計らって「厚史へのいじめをやめろ」と声をかけたのだ。
普段は大人しくしていて階級が中くらいの公彦に偉そうな口を利かれた彼は突如として殴りかかってきた。しかし、そんな行動など文字通りお見通しだった公彦はさも偶然のように彼を開け放っておいた窓から投げ放ったのだ。この瞬間、彼にだけ見えるように公彦は笑みを浮かべた。他意はなかった、あくまで自己でむしろ公彦の行為は褒められるものだと教師からの御咎めはなかった。だが、“あれはわざとだった”という噂はまたたく間に生徒のあいだに広がり、公彦という存在は中学校において一種の禁忌となった。
そんな彼に厚史は篤い感謝の念をおぼえ、話をしているうちに自然と仲良くなっていったのだ。父だか母だかがアメリカ国籍という彼は非日本人的な考え方をする公彦にとっては親しみやすかったのだ。彼が語る異国の情報や、射撃のスクールに通ったこともあるという話題にも興味を惹かれた。確か高校ではアーチェリーをやっているらしい。
と、なつかしい思い出に浸ってる場合じゃないと思った瞬間、
「ああ、それはな」
あっさりと活志が彼が知る限りのことの一部始終を語った。自由人がふたりになるとまったく手の施しようがなくなると、この瞬間、公彦は悟りの境地に達した。いちいち付き合いきれない。
「ほう、つまり公彦はストーカーで、女性の彼氏やその友人をとんでもない目に遭わせた、と」「そんな訳あるか」
思い切りこちらを茶化す気満々の表情を弾は浮かべていたが声を張り上げない訳にはいかなかった。
「そういえば、なんでああいうことになったのか理由を聞いてなかったな」
そこに活志が純粋に不思議そうな声を漏らす。彼には死体を始末してもらった恩がある、事情を明かさない訳にはいかないだろう。
「実は」と公彦は父親の財布を漁ってからそののちまでの顛末を語った。
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