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チャプター5
「死体が消えて、おまえらが口を閉じれば事件は“なかったこと”になる、そうだろ?」
「そ、そんなことが」「できるんだなあ、これが」狼狽(うろた)える男に余裕の声でこたえ少年はスマートフォンを取り出しどこかに電話をかけた。束の間のやり取りであっけなく話は済んだようですぐに彼は通話を切った。
「とりあえず、目立つからこいつらあの女の部屋にでも運ぼうぜ」
「ああ、そうだな」少年にうながされ、公彦は状況を理解しかねながらも合理的に判断をくだす。父から金を巻き上げている風俗嬢を脅しつけエントランスキー、さらに玄関の鍵を開けさせ、公彦と少年は駐車場と部屋を往復して死体と怪我したバカ連中を運び込んだ。
「えっと、ありがとうな」今後の展開は不透明ながらも、どうも少年は死体の始末に加担してくれるようだということで礼を戸惑い気味にのべる。この少年は何を考えているのだ。
「乗りかかった船だからな、まあ任せろよ」と、そこまで明るく告げたとこで、「そういえばお互い、名前も知らなかったな」と少年は眉根を開いた。よく表情の変わるな――。
「オレは活志だ」「俺は公彦」公彦の名乗りに、これで俺らは仲間だとばかりに活志は親しげな笑みを浮かべた。単純な性質(たち)の奴だなあ、と昔の漫画に登場するガキ大将を連想する。どうやら、初対面にもかかわらず相手はこちらに一定以上の好意を抱いたようだと公彦は判断し次の質問を発した。
「どうして、助けてくれたんだ」「助けたっつーか、あれは乱入だよな。だって、公彦は別にオレが手を貸さなくても全員倒せてただろ」
そこまで見抜いているのか、公彦は内心かすかに戦慄した。
学校では体格が痩身で中背のために時に男子生徒に侮られることもあるのだが、目の前の少年、活志はきちんとこちらの実力を見抜く審美眼があるのだ。
「まあ、な」「俺はただこのクソみたいな国でひたすら“暴れたい”それだけだ。だから、ちょっと加わらせてもらったのさ」
活志は顔こそ笑みを浮かべていたが、その瞳の奥には光を一切拒絶するような昏(くら)いものが見えた。それに、このクソみたいな国で、の一言が公彦の心に大きく響いた。
「ふざけんな、人を殺しておいて」
それにまともに動けない上に、“プレイ”で使うために用意していたらしい手錠で拘束して転がされた“あーちゃん”が喚く。元気な怪我人だ。不幸なことに自分の立場が未だに理解できないのが欠点だがそれは仕方がない、バカは死んでも治らないという。
「うっせーよ、てめえらだって誰かが死ぬようなこと、間接的にはやってんだろ。自分がその立場に立たされたからって文句言ってんじゃねーよ」
それに応じた活志は無造作に歩み寄るや、喉を思い切り蹴りつけた。頸椎が折れる音とともに半端な悪の命は絶たれる。
「因果応報ってやつだ」
こちらをふり向きながら彼は肩をすくめた。
「共感できないか」「いや、俺もそう思う」
大きくかぶりをふって公彦は活志に真剣な目を向ける。久しぶりに人と親しくなれそうな予感をおぼえた。
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