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「赤ずきんちゃんは、お祖母さんのお見舞いに行くんですよ?」
「そこで狼に食べられてしまうんです」
彼が戯けて両手を掲げる際、嗅覚が働く。なにやら美味しそうな匂いがする。
「私はお行儀のいい狼ですからね。美味しく頂く前にきちんと口説きます。いただきますのご挨拶も忘れませんから」
チーズとワインを買ってホテルに行けば、食卓いっぱいに手作りのイタリア料理が並べられていることだろう。
結人さんは企みを隠し切れていない。瞳の奥を探らなくたって分かるんだ。
「栄養が偏らないよう、ほうれん草のソテーを作りましょうか?」
やや間があって。
「……ほうれん草は苦手なんです。あとブロッコリーも」
「あら、素直ですね」
「はは、峯岸にバラされてしまいましたし。貴女を迎えに行く口実に彼を巻き込んだ罰だ。格好つけるのはよします」
「私のアパートに?」
「絵葉書で住所は知ってましたので。昨日あのまま帰してしまったのを後悔していました。何を告げても平行線だと思い、時間をおいた方が良いと。いざ帰したら帰したで不安になり、もう会ってはくれないんじゃないかって」
「私も帰ってから結人さんの事ばかり考えてしまい、逃げたりしなければと後悔しました。酷い言葉を言ってすいませんでした。助けに来てくれてありがとうございます」
今度は結人さんが言う。
「おや、素直ですね。また住む環境が違うとか、金銭感覚が異なるとか返されたらーー」
いったん主張を区切って、フードを払う。
「この口を塞いでしまおうと計画していたのに残念ですね。貴女は私の計画を狂わす、リスケが大変だ。こうなったからには責任を取って貰いましょうか?」
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