毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい

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毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい

 失恋をした。  髪を切りすぎた。  パーカのフードを被って帰り道を急いでいた。  ーーそして狼とぶつかった。 ■ 「これはね、祖母から贈られた物でいわゆる形見なんです」  カタリ、テーブルの上にひび割れた懐中時計が置かれる。いかにも繊細な作りで、素人目に見ても値打ちがありそうな代物だった。 「申し訳ありません!」  私は深く頭を下げたまま、時計の隣へ添えられた名刺を伺う。  謝罪の相手は『ヒロインシューズ』という世界的に名の知れた企業に勤め、肩書は秘書課長とある。つまりエリート。  あぁ、私はよりにもよってこんな人にぶつかってしまったのか。目の前が真っ暗になる。 「そう怯えないで下さい。何も取って食おうと思っていません。ただ貴女があまりにも混乱している様子でしたので、落ち着く為にお誘いしたのです」  ここは某高級ホテルのラウンジ。落ち着くも何も、パーカー姿で謝罪する私は明らかに浮いている訳で。 「ほ、本当に申し訳ありませんでした!」  ますます身を縮める私に対し、謝罪相手ーー葛城結人さんはニコニコと微笑む。  いきなり飛び出してきた女に衝突され、大事な懐中時計を損傷する事態に遭遇したというのに。
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