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#1
「父さん、話がある」
マサユキの言葉に、ソファに座り朝刊を読んでいた父親が、顔を上げる。
「なんだ話って。金の話は聞かんぞ」
「違うよ」
「裏バイトの手柄話も」
「そんなんじゃないったら」
「父さんの書斎で、宮沢りえの写真集サンタフェを見つけた話も」
「持ってんのかよ。ぜんぜん違うよ!」
父親は新聞をたたみ、傍に置く。
「劇団四季か」
「何が」
「その声の張り方は劇団四季の発声法だ」
「ち、が、う!」
「うーん、それは、吉本興業か」
マサユキは苛立ち、テーブルを握り拳で叩く。
その音が床に響き、大地を揺らす。
「震源地を作るな、マサユキ」
「これくらいでなるか」
その時、テレビにスーパーが現れ、たったいま、東京の世田谷を震源地にする地震があったと伝えた。
マサユキの家はまさに、世田谷だった。
「ほら見ろ」
「なんだ震度0.1って、誰も気づかないだろ」
「針に糸を通しているおばあちゃんは気づく。命がけでトランプタワー作っている人も」
「誰だよそれ」
マサユキはため気をつくと、静かな口調で言った。
「父さん、オレ、犬になるって決めたんだ」
その言葉に、父親の頬が痙攣したように、ぴくりと動いた。
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