出るねぇ

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#2  マサユキは、この1年間、国立()養成所に通っていたことを父親に打ち明けた。  父親は腕組みをし、庭をじっと見つめる。  水を打ったような静寂が、部屋を覆っていた。 「マサユキ」 「止めても無駄だよ、オレは決めたんだから。そのために、鼻水垂らして頑張って来たんだよ」 「垂らすなら汗水だろ、マサユキ。そしてお前に言う。私は止めはしない」  意外な父親の反応に、マサユキは困惑した。絶対に反対されると思っていたからだ。  父親はゆっくりと立ち上がると、庭に面した掃き出し窓の前に立ち、朝日の当たる庭を見る。庭の柿の木に、数個の柿が実をつけていた。  父親は、自分のツルッツルの頭を一度、撫でた。 「遺伝というのは、あるものだな」  その言葉に、マサユキの眉間にシワが寄る。 「どういうこと?オレは絶対ハゲない。犬になるんだから」  父親は振り返ると、マサユキが座っているテーブルの向かいにゆっくりと座る。 「髪の話じゃない。この話は墓場まで持って行こうかと思っていたが、話すしかあるまい」  父親はひと呼吸おき、話し出した。 「若い頃、そう、今のお前と同じくらいの頃だ。私は当時、いまでいう半グレだった」  その言葉に、マサユキは心底驚いた。  公務員として、動く蝋人形のように働いている父親から、半グレを想像することは想像できなかったからだ。  父親は続ける。 「半グレといっても、悪い友達に脅されて嫌々やっていたんだ。いつかそんな生活から足を洗わなければと思っていた時、ある刑事からこんなことを言われた」  父親がマサユキの目を見た。 「刑事は言った。お前はあいつらとは違う。足を洗いたがっているのがわかると。もし、情報を流してくれたら、あいつらから足を洗うサポートをしてやる、ってな」 「てな?」 「てな」 「・・・情報を流す、それって」 「タレコミ屋だよ。当時はいまで言う違法薬物の取引に関わっていて、それがいつどこで行われるかを警察に教えろってことだ」  タレコミ屋、違法薬物・・・。  マサユキには、父親の言葉のどれもが信じられなかった。ずっと、浅草名物でそんなに美味しいとも言えない雷おこしのような堅物だと思っていた父親に、そんな過去があったなど、想像さえできなかった。 「で、どうしたの」  マサユキと父親の目が、朝の陽光の中で交錯する。
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