49人が本棚に入れています
本棚に追加
人はよく、「そんな人間は、社会的地位を築いているはずがない」と言って慰めてくれる。けれど、会ってみないと分からないのもこの世の中だ。
私には、こんな場面が想像できる。
「おお、北原じゃねえか」
通りを歩いていると、ある男に声をかけられたとする。
お互いに40歳だ。風貌が変わり、すぐには思い出せないが、高校生の時、集団で私を虐めていた男たちの一人だと分かる。
「俺のこと、憶えているか?」男は一方的にしゃべる。
忘れるはずもない。松山という男だ。
この男、私をイジメていたことを忘れているのか?
そう思っていても、相手は楽しそうに話し続ける。あくまでも想像の中だ。
「お前、出島のこと、知っているか?」松山はそう切り出す。
出島と言うのは集団で虐めていた男たちの一人だ。
私が「知らない」と返すと、
「出島は、死んだよ。まだ若いのに・・」松山はそう言って、「出島は若い頃、素行が悪くて、誰か弱い人間を見つけると、よくイジメていたからな」と続ける。
自分の行いはどこかに置いてきたように忘れている。
そして松山は、
「ひょっとしたら天罰が下ったんじゃねえのか」と断定するように言って笑う。
その天罰とやらは、この男には下っていない。
最初のコメントを投稿しよう!