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部屋に入れたのはいいけれど、この状況で密室にふたりきりになればしぬほど緊張してしまうわけで。 「……」 「……」 ベッドを背もたれにしてふたりで並んで座っているけれど、さっきからずっとお互い話さないまま時間が過ぎていく。 とりあえず、お茶とか出したほうがいいかな。私から誘ったわけだし。 「……あの、なんか飲む、」 「いい」 「え」 「それより具合は?」 「……大丈夫」 和泉にそう聞かれて、そうだった、と本日2回目の嘘をついたことを思い出す。申し訳なくなって小さく答えれば、「そ」と、短く返ってきて。それから間もなく、黒く澄んだ瞳の中に閉じ込められた。 「なら、教えて」 「……何を」 ここで、和泉の顔がぐんと寄ってきて。 この距離に顔があるのはものすごく久しぶりで、意味がわからないくらい心臓が鳴った。 「お前はいま、どんな気持ちでここにいんの」 そして、そう問われる。 どんな、気持ちで。 だけど最悪なことに、そう聞かれても上手く答えられないのが私である。ただ、あのまま帰ってほしくなくて、気がつけば引き留めていて。 それがどうして、なんて。 「……わかんない」 「は、うざ」 和泉がそう言うのも無理ない。だって自分自身の気持ちのことなのに、わからないなんておかしいもの。篠原くんは優しく聞いてくれたけれど、この反応が普通であることぐらいはわかっている。 だけど、本当にわからないのだ。それはたぶん、〝和泉のこと〟だからで。 例えば篠原くんや華恵に対して抱いている気持ちなら、簡単に説明できる。友達で、頼りになって、大切で。それなのにこいつのことになれば、途端に浮かばない。 うざいとかきもいとか、求めている答えはきっとそうじゃない。 このことについては考える時間はたくさんあったはずなのに、まだ答えが〝わからない〟なんて。そんなふざけた話、誰が許してくれるのだ。 「まじでわかんないの」 「……」 「わかんないままでいいから、言って」 だけどきっと、私が今しなければいけないのは。 「……い、ずみ」 「うん」 「…………じゃあ、聞いて」 許されなくてもいいから、こころの中丸ごと全部をこいつに明かすことだ。
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