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和泉が座り直す。体の正面をこちらに向けてくるから、私も同じようにした。
心臓がいつもよりも速く鳴るのは、緊張しているからなのか。
……とにかく、話さないと。
「……あんたって……、ほんとクズよね」
「はぁ? 今更そんなこと?」
だけど、こいつと真面目な話なんてしたことなくて。切り出し方がわからず、いつもの悪口みたいな言葉がついこぼれる。
それに対して一瞬だけ顔が歪んだけれど、それでも和泉はちゃんと私から目を逸らさない。
だから。
「……聞いて」
「うん、聞く」
思っていることを、話す決意をした。
「……あんたって、出会った時から顔が良かった」
「そりゃどーも」
「だから、顔が好きだなって思ってた。それと、たまに遊ぶくらいの普通の友達だと思ってた。あんたと遊ぶの、楽しかったし。……でも、『ブス』ってみんなの前で言われた時から、それは変わっちゃって」
「……それは、まじで悪かった」
「高校で再会した時だって、あんた変なことしてたし。3年間遊びまくって、ひとのこと泣かせて、ひとに殴られて、正直引いてた。それは大学に入ってからもそう。てか、同じ大学ってなんなのって、サークルまで一緒とか嘘でしょって」
話しながら思い出していた。こいつと初めて出会った頃のことから、今までのこと。そうすれば改めて、付き合いの長さを知る。
ほんと、腐った縁。
「遊び人で、クズで。私はあんたとだけはそういうことはしないって、ずっとそう思ってた。男として見るとか、論外だった。…………なのに、」
言葉に詰まっても、和泉は急かさないで「うん」と待ってくれるから。1度深呼吸をして、続きの言葉を探す。
「急に……距離感おかしくなるし……絶対触られたくなかったのに、やっちゃうし……まぁ、それは私が悪いんだけど」
「……ん」
「……それだけで心臓しにそうなのに、好きとか言われて。そんなの、対応しきれるわけないじゃない……」
今でもあの夜のことは鮮明に思い出せてしまうから。見つめていたら顔があつくなってきて、つい合っていた目を逸らしてしまった。
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