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こいつの口から聞く、〝好き〟には、どうも破壊力がありすぎる。だけどさすがに、そんなわけない、といちばんに思った。
だって和泉は、もう私に興味なんてないはずで。確かに和泉は、私にそう言ったはずで。あの言葉が、私のこころを刺したわけで。
だからそんなこと、いま思っているわけがない。
「……いつの、話」
「ずっと、いまも」
なのに、なんでこの男がそんなことを言うのか、わからなかった。だって私のことなんて、もう。
「な、んで…………だって、」
「な。こっちが聞きてぇよ」
「は、はぁ……?」
「お前、まじでむかつくのにね」
「……な、」
「でも俺って、意外と一途らしい」
「っ、」
「あれじゃん。呪ったの、俺じゃなくてお前な」
つまりそれって、どういう意味。真意を問う前に、「なぁ」と先に言葉を寄越されてしまった。
「なんで今日、俺のこと引き留めた?」
「、」
「なんで俺といると、変になんの?」
なんで、と。今度は和泉から投げかけられる。だけどいつもの如く上手く言葉にできない。
「まぁ、どうせわかんないって言うもんなお前」
そうすれば、私のことをわかっているような口調でそう言うから。
「……わかんない、けど」
「なに」
「……あんたにこうされても、むかつかない」
そう言い返してやれば、和泉は「は、なんだよそれ」と、呆れたように笑った。
それから「へぇ」と、私の頬に触れながら耳朶にも触れてきて、つい肩がぴくっとなる。そんなことはお構いなしに、「これは?」と問われたので、小さく横に首を振った。
そうすれば今度は、耳の輪郭をゆっくりとなぞられる。ドックンドックン、規則正しく音が鳴る。
「じゃあ、これは?」と、次にそう聞かれた時には和泉の額と私のが合わさって、一気に距離が近くなったから。
「……無理、しぬ、心臓」
「あっそ」
徐々に、輪郭が形成されていく気がした。
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