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「……それって、つまり……?」 「なんだよ」 「私のこと、その……」 肝心の2文字を言葉にするのを躊躇っていれば、和泉はあからさまに嫌そうな顔をした。 「は? 俺には言えって?」 「……」 和泉が不満に思う気持ちはわかるし、ずるいのもわかる。私だったらたぶん、ぶん殴っている。 だけどもう1度、その口から聞きたいと思ってしまった。だって、今でもちょっと不思議なのだ。だから、確かめたいのだ。 あの夜、私のこころに刺さった棘たちは、ひとつ残らずこいつに抜いてほしい。もう、いい。自己中でもなんでもいい。 「聖梨」 「う、ん」 改めて名前を呼び直されて、目にも耳にも神経を集中させる。この瞬間は、ちゃんと焼き付けておかなければいけないと思った。 今度こそ、ちゃんと、真正面から。 「正直、普通にむかついてたけど。でも今日のお前見てたら、どうでもよくなったっつーか」 「……うん」 「まじでうざい。けど、」 「うん」 「聖梨のこと、好き」 その言葉を放ってすぐに、〝これでいい?〟とでも言っているかのような目で見てくるけれど、こちらはそれどころではなかった。 やっぱり、本物で。その本物を受け取った今、確実に以前とは違う気持ちが胸を占領している。 やばいやばいやばい、心臓、しぬ。 「……」 「おい、無視かよ」 無視ではない。和泉の瞳の糖度が高くてくるしくて、言葉が出てこないだけだ。 「お前なぁ、」 「えっと、待って、」 「待てない」 「え、」 「俺のこと、どう思ってんの」 だけどそんなことは和泉には関係なく。当然、そうなるわけで。 「……わかんない」 「は? ふざけてんの?」 「……いや、わからないというより、まだちゃんとはわからない、っていうか……」 「早くわかれよ」 「、でも」 「……なに」 今すぐ言うには照れくさいけれど、ひとつだけ、伝えられることがあるとするならば。 「…………付き合っても、いいよ」 ──あぁ、こいつって、こんな顔もするんだ。 目の前の男の瞳は、一瞬だけまあるく開いて。それから眉間に皺を寄せて、でもやさしく、嬉しそうに。 「上からなの、うざ」 それからその言葉と一緒に落とされたのは、甘い甘い口づけだった。
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