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唇が離れて、今度は目が合う。
恥ずかしいような、照れくさいような。とにかくくすぐったい気持ちに支配されて、速攻で手で顔を覆った。
「聖梨」
「、はい」
「こっち見て」
「無理」
「なんでだよ」
自分がどんな顔をしているのかわからないけれど、絶対、変だと思う。
「……いま、めっちゃブスだから」
「はぁ?」
「仮にもあんた、私の中でベストオブ顔面なわけ……それを目の前にしてこんな顔見せられるわけないっていうか……」
「何言ってんのお前」
ほんと、何言ってんの、である。だけどそれくらい、頭の中はプチパニック的なものを起こしている。
それでもやはり和泉はお構いなしに、「いいから、見せて」と、自分の手のひらで私の手を包んできた。
視界に何も見えない中で、鼓膜を撫でる声はいちだんと甘いから。
「……っ、」
言う通り、顔を覗かせてしまう。だけど思ったよりも近くて、再び自分の手のひらに隠れた。
「おいこら」
「……ほんと、無理」
「あのなぁ……」
呆れているけれど、少しも棘は感じない。だからそれをいいことに、顔面はガードしたままでいる。
すると和泉は小さく息を吐いてから、「聖梨」と再び手を掴んできたので、負けるとわかっていながらも少しだけ抵抗をする。
「だから、ちょっと待っ、」
「そのくそかわいー顔見せて」
でも。
和泉がそんなことを言うものだから。びっくりして思わずすんなりと視界をクリアにすれば、すぐに唇を食われた。
「ちょろ、お前」
「っ、」
やっぱりそれは、砂糖みたいに甘い気がした。
「まじで長かった」
唇を触れ合わせて、離れて数秒。見つめ合っていると、和泉がそんなことをこぼす。
「え?」
「ほんとは今すぐお前のこと、めちゃくちゃにしてやりたいんだけど」
「、は、それは無理、」
「なんか、こうしてるだけで満たされるわ」
「、」
「……待って、きも、俺。今のなしで」
透明感のある肌が、いつの日かと同じようにほんのり赤くなる。あぁ、あれは照れていたのかと、今更答え合わせができて、思わず口元が緩んでしまった。
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