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「なに笑ってんの」
「いや、和泉でも、そんなふうになるんだなと思って」
「うざ。見んな」
こんな和泉を見るのは新鮮で、もっと見たいような気持ちになるけれど、これ以上何か言ったら怒られそうなので我慢する。
恥ずかしいような嬉しいような気持ちを抱えながら、この状況を頭の中で整理してみる。
飲み会が始まる前は、こんなことになるなんて少しも思わなかったのに。人生、何があるかわからないものだなと、大袈裟かもしれないけれどそう思う。
そんなふうにひとりで勝手に振り返っているうちに、あることを思い出して。そうすれば、ひとつの疑問が浮かび上がってきた。
「ねぇ、そういえばさ」
「なに」
「なんであんたが荷物持ってきてくれたの? 私、華恵に頼んだんだけど……」
「……それ、聞く?」
「だって、普通に気になるわよ」
宛先を間違えているなんてことはなく、確かに私は華恵にメッセージを送った。なのに現れたのは和泉で。
なんで、と、数時間前の私はとにかく驚いた。
じ、と見つめれば、和泉は渋々口を開く。
「……あいつが、『お前が行け』ってしつけーから。無理やり荷物押し付けられて、仕方なく」
「え……そうなの?」
「鬼みたいだったわ、まじで」
鬼になった華恵は見たことないけれど、たぶん、わりと怖いと思う。明日会ったら聞いてみよう。
普段はそんなに他人に干渉しない華恵も、この件に関しては根掘り葉掘り聞いてくるだろうし。
「なんか……ごめん」
「まぁ、結果良かったんじゃね?」
そうだろうかと思ったけれど、考えてみたら確かに和泉の言う通りかもしれない。今日を逃してしまえば、もしかすると今みたいな結末にはなっていなかったのかもしれないと思うと、なんとも不思議な気持ちだ。
「……それは、そうかも」
ひとつの疑問が解決する。だけどそうすれば、また別のことを思い出す。
「あと……もうひとつ聞きたいんだけど」
「なに」
「女の子と関係切ったって、なんで教えてくれなかったの」
これに関しては「あぁ」と、さっきとは違ってすんなりと口を開いた。
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