11

12/14
前へ
/156ページ
次へ
□ 「あ、」 「あ」 昼休み。華恵と食堂に向かっていると、綺麗な黒髪のポニーテールが揺れたのが視界に入って目をやれば、自然と声が漏れた。それは相手も同じだったようで、こちらに近づいてくる。 「こんにちはぁ、せんぱーい」 ぷるんぷるんの唇に、目の下のアイシャドウは今日も絶好調だ。 「実結ちゃん……こんにちは……?」 「てか先輩っ、ちゃんと感謝してください!?」 挨拶を交わして早々、そんなことを勢いよく言ってくるのが、なんとも実結ちゃんらしい。 実結ちゃんには自分の口から報告したほうがいいと思ったので、実はこの前たまたま見かけた時に話をした。どんな反応をされるかわからなくてちょっとびびっていたけれど、特に驚きもせずに『やっとですかぁ』と、こうなる未来がわかっていたような口ぶりだった。 「してるしてる、ほんとにありがとう」 「あ、先に言っておきますけど、気ぃ遣うのとかやめてくださいね? うざいんで!!!」 「わ、わかってるよ、うん」 「てゆーか今いい感じのひといるし、もう全然気にしてないです」 「えっ、そうなの?」 「私、モテるんですよねぇ。あ、惚気ぐらいなら今度聞いてあげてもいーですよ」 べ、と最後に舌を出して、実結ちゃんは待たせていたであろう友達の元へ駆けていく。ツインテールが艶やかに揺れるのを、つい眺めてしまった。 「いやー、パワフルだね」 「うん……なんか、眠気吹っ飛んだ」 「あ」 「ん?」 「次はあんたの彼氏発見」 「、っ」 「ねぇ、照れるのやめてくれない? こっちが恥ずかしいわ」 「か、彼氏って言うのやめてよ。普通に呼んでくれる?」 そんなことを話しているうちに、目の前に影が落ちる。顔を上げれば、見事な美形にまじまじと見下ろされた。 「よ」 「……よ」 「さーて、何奢ってもらおうかなー」 和泉が現れてすぐ、華恵は上機嫌にそう言った。そう、今日は華恵に学食を奢ることになっている。あの夜、私と和泉を繋げてくれたのは紛れもなく華恵なので、そのお礼的なものだ。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加