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「あ、」
「あ」
昼休み。華恵と食堂に向かっていると、綺麗な黒髪のポニーテールが揺れたのが視界に入って目をやれば、自然と声が漏れた。それは相手も同じだったようで、こちらに近づいてくる。
「こんにちはぁ、せんぱーい」
ぷるんぷるんの唇に、目の下のアイシャドウは今日も絶好調だ。
「実結ちゃん……こんにちは……?」
「てか先輩っ、ちゃんと感謝してください!?」
挨拶を交わして早々、そんなことを勢いよく言ってくるのが、なんとも実結ちゃんらしい。
実結ちゃんには自分の口から報告したほうがいいと思ったので、実はこの前たまたま見かけた時に話をした。どんな反応をされるかわからなくてちょっとびびっていたけれど、特に驚きもせずに『やっとですかぁ』と、こうなる未来がわかっていたような口ぶりだった。
「してるしてる、ほんとにありがとう」
「あ、先に言っておきますけど、気ぃ遣うのとかやめてくださいね? うざいんで!!!」
「わ、わかってるよ、うん」
「てゆーか今いい感じのひといるし、もう全然気にしてないです」
「えっ、そうなの?」
「私、モテるんですよねぇ。あ、惚気ぐらいなら今度聞いてあげてもいーですよ」
べ、と最後に舌を出して、実結ちゃんは待たせていたであろう友達の元へ駆けていく。ツインテールが艶やかに揺れるのを、つい眺めてしまった。
「いやー、パワフルだね」
「うん……なんか、眠気吹っ飛んだ」
「あ」
「ん?」
「次はあんたの彼氏発見」
「、っ」
「ねぇ、照れるのやめてくれない? こっちが恥ずかしいわ」
「か、彼氏って言うのやめてよ。普通に呼んでくれる?」
そんなことを話しているうちに、目の前に影が落ちる。顔を上げれば、見事な美形にまじまじと見下ろされた。
「よ」
「……よ」
「さーて、何奢ってもらおうかなー」
和泉が現れてすぐ、華恵は上機嫌にそう言った。そう、今日は華恵に学食を奢ることになっている。あの夜、私と和泉を繋げてくれたのは紛れもなく華恵なので、そのお礼的なものだ。
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