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先に華恵が何を食べるか吟味している間に、私と和泉で席を確保することになった。
丁度よく4人席が空いたので、そこに荷物を置く。華恵にわざわざ伝えにいかなくても見つけられる位置だったので、座って待つことにした。
「なぁ、今日うち来る?」
「え、なんで」
「は? なんでとかないわ」
「え」
「理由がなきゃ呼んじゃいけないわけ?」
「……」
和泉と付き合うことになって約1週間。友達だった期間があまりにも長すぎたのと、これまでずっと悪口的な、あまり良くない言葉ばかりを浴びせていたせいで、こういう会話には未だに慣れない。
「じゃあ、来ないのな」
「い、行くって」
慌ててそう返事をすれば、「ふーん」と満足そうな声と共に肩に重みを感じる。ついでに、周りからの視線もちらほらと。
「ちょっ、と……! こんなところでくっつかないで!?」
サラサラの髪の毛が頬の辺りに触れて、くすぐったいのもそうだけれど、大学の食堂でこんなことをされるのは恥ずかしすぎるし、さっきから女の子たちの視線が刺さっている。
和泉 雪斗が彼女を作った。
それはやっぱり一部の女子のあいだで、それなりに噂になっているらしい。
「なんで。いいじゃん、減るもんじゃないし」
「そういうことじゃない。公共の場でやめてって言ってんの」
「なら、帰ってからだったらいいの?」
「っ、」
さすが元クズ。こういうのに慣れすぎていて、困る。
「聞いてる?」と、すぐ隣から問いかけられるけれど、慣れていない私は答えに詰まるわけで。とにかく、今はちょっと離れてほしい。だけど全然離れてくれなくてまた困った。
そうしている間にも、「おい、こんなとこでイチャつくな」と、いつの間にか向かい側に立っていた華恵にも見られて。
はぁ、もう。
「、ちょっと、違う華恵、こいつが、」
「こいつがくっついてほしそうだったから」
「あー、はいはい。家帰ってやれ」
付き合ってから知ったこと。和泉は結構、外でもくっついてくるタイプの男らしい。
大学ではやめてほしいんだけど。でも、シトラスのいい匂いがふわりと香ったから。まぁいいかと、和泉に見られていないのをいいことに、つい口元が緩んだ。
──未来のことは何ひとつわからないけれど。こんな日々がこれから毎日続くのも、悪くないかもしれないなんて思う。
綺麗じゃなくてもいい。私はこいつと一緒に、いろんなかたちをした思い出を作っていくのだ。
おそらく、ずっと。
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