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タクシーは意外とすんなり捕まって、とりあえず自分の家の方面まで行ってもらった。なんとなくの場所ならわかるけれど、正確な住所まではわからないので、最後は適当な場所で降ろしてもらい、そこからまた歩くことに。
タクシーから降ろすのも一苦労だったし、再び背中に乗せるのもまぁ大変だった。
だけど、こいつだからここまでするのだ。知らない女だったらたぶん、普通に置いて帰るか他のやつに頼むか。いや、知ってる女でもだ。
俺が持ち帰るのは、酔ってても歩ける女だけで。基本的に面倒なことは嫌いだなんて、面倒なことをしている中で思う。
タクシーから降りて数分ほど歩けば、聖梨の住むアパートが見えてくる。この前、こいつの家を知っておいてよかったわ、まじで。
「おい、着いた」
「……」
「聖梨」
「、ん」
「何階?」
「……んー、にぃまるに」
「鍵は?」
「かばんの、なか」
意識があるんだか、ないんだか。寝ぼけながらも答えてくれて助かる。
アパートの階段をのぼって、言われた通りの部屋の前に着く。酔っ払いの言葉を全て信用できるかどうかは微妙なところだけれど、他に知る術はないので信じるしかない。
「鍵……」
聖梨をおぶりながら、どうにかこいつの鞄の中に手を突っ込む。すると布の塊のようなものに触れて、「あー……これか」と引っ張り出した。
眠っているシーサーに、鍵がぶら下がっている。ついムカッとして、ほんの少しだけ顔を潰した。早く違うキーホルダーに替えて欲しい。
鍵穴に鍵を差し込めば、ぴったりと入った。どうやらこの部屋で間違いないようだ。
鍵を開けて、静かに部屋に入る。まじでころされんじゃね? と思いながら、薄暗い部屋の中、ベッドを見つけたのでとりあえずそこに寝かせた。
服には店の臭いが染み付いている。せめて服ぐらい、着替えさせてやったほうがいいのか。
周りを見れば、ちょうどすぐそこにこいつの部屋着であろうものが、畳まれた状態で置いてあって。
「……」
これは、そう、人助けである。
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