魔女の帰還

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 「お久しぶりです隊長。言われた通り魔女のギフト奪って来ましたよ」    あれから私はレティを連れて基地に戻った。スミス隊長は私を一瞥するとレティの身柄を拘束して、会わせたい方がいると私達を連れて基地の中枢へと歩き出す。  「魔女のギフトを奪ったというのはお前か?」  厳重な扉の先にいたのは現国王フィリップ陛下だった。隠密で訪れているのか護衛は少数、しかしその動きは洗練されており選り精鋭だとわかる。  跪き”はい”と応えれば、値踏みするように私を見た後、レティに視線を移す。  「このような子供に手を焼かされていたとは、さてどうしてくれよう」  「陛下、失礼ながら発言をお許しください」  護衛の鋭い視線が私に向く、しかし王はよいと鷹揚に頷いた。  「国内では不謹慎な事に魔女を神聖視する動きがみられます、処刑して火種を作るよりも軍門に下ったと陛下の元に置かれる方がよろしいかと。それに彼女は美しい飾りとしても映えましょう」  レティを王の前に連れて行くと、伏せた彼女の顔を覗き込む。ほぅと息をつき厭らしく笑いながら確かに殺すのは勿体ないと同意する。  「ではもっと近くで……」  近づけるように押しながら裾に仕込んだ刃でレティのロープを切ると、彼女が王に手を伸ばす。しかし護衛の刃の方が早い、私は彼女の体を抱いて転げるように後ろに飛んだ。  「やはり私のギフトが狙いか」  「バレていましたか。本来ならば前王の思想を受け継いだ第二王子が王位を継承するはずが、神の雷鎚の出現と共に継承権は貴方の手に渡った。だからギフト所有者は貴方だろうと踏んでましたが当たりですか?」  最後の慈悲のつもりか私の問いに王が答えた。  「そうだ、忌々しい父上が亡くなり私が王となったというのに、そこの魔女のおかげで戦争は誤りだと弟を押し上げる愚かな連中が煩くてな。威光を示す為ギフトの使用もやむなしと思っていたのだが、魔女自ら飛び込んで来るとは」  私達を拘束する護衛の代わりにスミス隊長が王を守るように隣に立つ。  「拷問にかけてギフトを吐かせろ、魔女は牢屋に入れておけ」  しかし彼は動かない、そして王の許可なく口を開いた。  「王よ、俺は貴方の為であれば瞳を失うのも惜しいとは思わなかった。けれども俺が見た未来、神の雷鎚によって巻き起こる世界規模の大戦よりも自身の保身を重んじた貴方に忠誠誓うことは出来ない」  護衛が動くより早く隊長が王に触れる。  「ばかな、お前のギフトは未来視のはず」  「俺の未来視はそこの少女が持っていますよ」  そう、隊長がレティを拘束した時にギフトを交換しておいたのだ。神の雷鎚を奪われた王が力なく崩れ落ちる。それから間もなくして王弟派の兵が議会の承認なしに神の雷鎚を使用しようとした罪でフィリップ王とその護衛を連れて行った。  「だから魔女を殺せではなくギフトを奪えだったんですね、隊長」  「全てが見えていたわけじゃないさ」  その横顔は少し寂しそうだ。隊長と王とは学院時代に交友があったと聞く、それ故の信頼関係だったのだろう。まぁ、なにはともあれ終わったのだ、王弟が王位に付けば和平交渉に移るだろう。  体を震わせているレティに手を貸すとわっと泣き付かれた。ちなみに私の巻き戻りは交換の際に壊れている。ギフトの交換は一度だけなのに私とレティは時間を巻き戻して強引に2回やったせいで絡んだ時間軸がブチギレたようだ。  「お姉様は無謀すぎます!」  「上手くいったんだからいいじゃない」  アハハと笑えばぽかすかと胸を叩かれて参った。  「帰りましょうレティ、そして今度は私の焼いたパイを二人で食べるわよ」    私がそう宣言すれば、レティは涙を拭って微笑んだ。  「はい、お姉様」  私達にはこれからも波乱が訪れるだろう。しかしとりあえずは、この久しぶりの平和を噛み締めましょうか。
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