魔女の帰還

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 穏健派の王が崩御し野心家の第一王子が即位すると豊富な資源を求めて隣国と戦争が始まった。前王が結んだ友好条約は難癖を付けて破棄をして、我が国の圧倒的な戦力が隣国を蹂躙するはずだった。  しかしその予想は一人の少女によって覆された。辺境の魔女、彼女は10回ダイスを振ってその全てに1を出すような数々の軌跡を引き寄せた。晴天の嵐、疫病の蔓延、天災人災すら彼女の掌、それに加え、未来を見通す瞳を持つかのようにこちらの戦略は尽く先手を打たれる。  戦局は決め手を欠けたまま膠着状態となり3年の月日が経とうとしていた。  「ティア、お前のギフトで魔女の能力を奪ってこい」  そんな無謀な命令を下したのは私が所属する特殊部隊の隊長スミス中尉だ。その片目には包帯が巻かれおりギフトを使った事が伺える。  ギフトとは天から与えられた特殊能力で、その使用には代償が必要だ。所有者は全人口の1%にも満たない貴重な存在だが使えない能力も多い。  私の能力は一度だけギフトを交換するというもの。交換するには相手の能力を知り体の一部に触れないといけない、しかし強力ギフト持ちに近接するなど不可能だ。だから交換ギフトはハズレ能力と言われている。その分代償は軽く僅かな血液で済むけれど、敵地に単独で乗り込めだなんて死んでこいと言われてるようなものだ。  しかし一兵の私にNoという選択肢はなく眉間に皺を寄せて了解と答えた。  私は今年で24才、ギフトが発現する10才までのスラム暮らしを思えば食事が出てくるだけマシだけどいつ死んでもいいかと思える程度の暮らし。でも未練がないこともない。    「どうせならベリーパイ腹一杯食べてから死にたかったわ」  雲一ない晴天の青空にひとりごちる。まさかそれが現実になるとも思わずに。
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