魔女の帰還

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 目の前にはホールのベリーパイが鎮座している。  「お姉様はこれがお好きだったでしょ、腕によりをかけて焼いたんです」  まさかのお手製、万物を見通す魔女とはいえ私の呟きを聞くほど暇ではあるまい。あの後、当然の如く侵入に失敗した私は魔女の熱烈な歓迎を受けていた。どうしてこうなった?話は数時間前に遡る。  大広間で伏せながら私は裁きの時を待っていた。見つかれば即殺されると思っていたが、拷問でもするつもりだろうか。その時扉が開いて人々が一斉にかしずいた。    「レティシア様がいらっしゃいました」  恭しく告げられた名に私は目を見開く、辺境の魔女自ら裁きを下そうというのか?だとすれば最初で最後のチャンスだ。しかし魔女のギフトが分からない。未来視、確率操作、いくつか候補はあるもののネックはその制約性のなさだ。  例えば最強のギフトと恐れられる”神の雷鎚”は半径10kmを粉砕しその粉塵は風に舞い黒い雨となり広範囲に疫病を撒く、所有者の出現で国力が一新される程強力なものだが代償はその命だ。だがら使用できるのは1度だけ。代償を必要としないギフトなど聞いたことがない。  我が国が辺境の魔女を侮っていたのもこれが理由だ、どんなに強力なギフトだとしてもいつかは衰える。そう言われて既に3年の月日が経った、けれど魔女のギフトに衰える気配はない。最近では彼女は神の化身なのでは?と戦争に反対する動きさえ見られる。  魔女と言えども14歳の少女、隙を見て一矢報いたい、しかしそんな思いは彼女を見て霧散する。金砂のように燦く髪に白磁の肌、美しい少女だと称するにはその瞳が深すぎる。千年の大木を前にしたような己の矮小さに身震いした。  「人払いをしてください」  少女らしい高く澄んだ声、なのにそれは威厳に満ちており反することを許さない。  二人きりという絶好の機会にも関わらず私は動けずにいた、するとあろうことか魔女の方から胸に飛び込んできた。  「お久しぶりです、おねぇえさま!!」    さっきの威厳はどこへやら泣きながら私に縋る彼女はただの14歳の少女だった。この状況で初対面ですよねぇ?と言える度胸はない、仕方無しに背中を擦ってやると再び嗚咽を漏らしながら1時間ほど泣かれた。付き合った私は偉いと思う。
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