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「私、あんたのお姉様になった記憶ないんだけど」
行儀悪くパイを咀嚼しながらそう言うと魔女はくすりと笑う。
「覚えていなくてもいいんです、あぁ、あのお姉様が子供みたいですね」
口元に付いていた食べ滓を拭かれる、こちとらスラム育ちでマナーなど知らなくて当たり前、しかし10歳も離れた少女に子供扱いは些か複雑だ。私はギフトが発現してから軍の管理下に置かれている、だから彼女と会っている可能性は皆無だ。誰かと勘違いしてるのだろうと雑に思考を片付けパイを頬張る。
「あんたは食べないの?」
「昔は私も好きだったのですが、食べ飽きてしまって」
贅沢な話だと思う反面、なぜだか悲しく思えた。だからパイを刺したフォークを魔女の口に持っていき食べさせる。
「一人で食べるより二人で食べた方が美味しいでしょ?」
経験は無いのにそんな言葉が自然と出てきた。
「はい……とても美味しいです」
そう言ってまた涙を溢す、我が国が恐れる万能の魔女はとても泣き虫だった。
その夜、私の隣ですやすやと眠るレティシアの髪を掻き分けその細い首に手を掛ける、ギフトではなくその命を奪えばいいのでは?と頭の中が囁いた。
「だけど私の任務はギフトを奪えなのよね」
魔女を討てば生きて戻れなくても祖国では英雄だ。でもそんなものより私には腹一杯に食べてふかふかの布団で寝る方が価値がある。だからこれは魔女に絆されたせいではない。
彼女の目元には薄っすら隈がある、細い肩に乗るのは何千何万の命、よく今まで潰れなかったものだ。いやもう精神的には参っているのだろう、だから私なんかをお姉様と呼ぶのだ。
「いいわ、私があんたのお姉様になってあげる」
そう呟いて怯えるように丸まった彼女の体をそっと抱きしめた。
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