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その言葉に、村人たちはどよめいた。
「狼を飼うだなんて、聞いたことがない。万が一にも、牙をむいたらどうするんだ」
「そうならないように、よく躾けるんだ。しかも、特に大人しくて物分りのいい奴を選んでね」
「生き物を馴らすということがどんなに大事か、解っているのか」
厳しい目つきで、村長が言った。
「一頭だけならば、その命が尽きるまで面倒を見ればよろしい。しかし、つがいを飼えばどうなる? 孫も曾孫も、この村で飼うことになる。人の都合で生かしたり、殺したりできるということだ。そんなことを続けていれば、狼が狼でなくなってしまう。ふたたび野山へ帰すこともできなくなるぞ」
青年は愉快そうに笑った。
「村長は大袈裟ですね。……狼の子は狼です。そう、姿形が変ったりしませんよ。それに、村には食べ物もたくさんあります。人と一緒に暮すほうが、狼もしあわせだと思うんです」
青年は松明を掲げ、ごみ捨場にやってきた。黒い影たちがこちらに気付いて、一目散に逃げてゆく。だが、じっとしているものが一つだけいた。
若い狼だった。青年と目が合うと、咥えていた骨を放り出した。くりくりした黒い目で見上げてくる。お行儀よく前足を揃えて、ちんまりと坐っていた。
「お前、よく見たら可愛い顔してるな」
青年は笑みをこぼした。
距離を保ったまましゃがみ、語りかける。
「今度、一緒に狩りに行くか?」
狼は嬉しそうに尻尾を振って、「ワン!」と元気よく吠えた。
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