取り分で揉めるお菊さん

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取り分で揉めるお菊さん

 ダグラスとの仕手戦が終わった武たちは、コダマ証券の打合せスペースでダラダラしている。コダマが外出していて、帰ってくるまで暇なのだ。  暇な猫は武に「そういえばさー」と話しかけた。 「どうしたの?」 「俺がダグラスのアジトに潜入した時に手に入れた、とっておきの情報があるんだ」 「またパンツの話だろ?」 「違うけど、解答権を1回あげようか?」 「じゃあ、ピンク」 「残念! 不正解です」 「じゃあ、何色?」 「教えねー」 「あっそ」 「そういえば、ダグラスのアジトに潜入してたときにアイツらの話を聞いてたんだけどよー、手下はみんな「お嬢、お嬢」って言って、アリスに手順を確認してたんだ」 「へー。じゃあ、アリスが仕手戦を仕切ってたのかな?」 「みたいだな。総会屋もアリスが裏で仕切ってたかもしれない。気を付けた方がいいな」猫はしみじみと言った。  武が猫と雑談をしていたらコダマが戻って来た。次の作戦についてのミーティングが始まった。  ダグラスとの仕手戦に勝利した武たち。しかし、コダマが言うには、ピーチ・ボーイズの資金源を断つためにはもう一つダグラスのビジネスを潰しておく必要があるようだ。  コダマは「あまりにアングラなビジネスに関わるとリスクが高くなるから」と言って、ダグラスのビジネスの一つであるマネロン(資金洗浄)を潰すことを提案してきた。  コダマが次の計画の概要説明に入ろうとすると、お菊さんが「ちょっと話があるんだけど」と不満そうに発言した。何か気に入らないことがあったのだろうか? 「どうしました?」とコダマはお菊さんに確認する。 「仕手戦で3,000万円(現在の6億円)儲かったよね」お菊さんはボソッと言った。 「そうですね」 「どういう割合で分配するのかな?」  武は理解した。 ――お菊さんは分け前をよこせと言っている・・・  お菊さんはお金に関してかなり意地汚い。ピーチ・ボーイズの捕獲のときも報酬の2億円に執着していた。今回もきっとそうだ。武は余計なことを言わないようにしつつ、静かに事の成り行きを見守る。 「分配ですか?」コダマはお菊さんに尋ねた。 「そうよ。今回の仕手戦に勝てたのは武くんのお陰よね?」 「まあ、そうですね。武くんのアイデアがあったから、ダグラスとの戦いを有利に運ぶことができました」 「そうよね。だったら、仕手戦で儲けた3,000万円は私たちが貰う権利があるよね?」 「そう仰られても・・・、実際に資金を出したのは当社ですし、トレードしたのも当社です。もっと言えば、五反田興行の社長に交渉したのも当社です。そういう意味では、最大の功労者は当社といっても過言ではありません」 「コダマ証券は事務作業をしただけじゃない。アイデアの方が重要に決まってるでしょ!」 「アイデア料なら払っても構いませんよ。100万円ですか? 200万円ですか?」 「だーかーらー、3,000万円よこせって言ってるのよ!」  一歩も引かないお菊さんに困ったコダマは、少し考えてから提案した。 「じゃあ、武くんに聞いてみましょう」 「何を?」お菊さんはコダマの真意を確認する。 「アイデアを出したのはアナタではなくて武くんですから。武くん、今回のアイデア料はいくらが適正だと思いますか?」 ――コイツっ、小学生に振りやがった・・・  武は今回の件を冷静に考えてみる。  武のアイデアで仕手戦に勝てたのは事実だ。  でも、五反田興行のオオサキから株式を借りられなかったら、このディールは成立しなかった。  それに、仕手戦で重要になる売り時のタイミングを教えてくれたのは猫(ムハンマド)だ。絶妙なタイミングで売りを開始しなければ勝てなかった。  そして、コダマ証券の事前の情報収集や株式売買の執行がなければ仕手戦に勝つことはできなかった。  これらのどのピースが欠けていても、この仕手戦の勝利はなかったはずだ。  武は意地汚い大人に向かって発言した。 「今回の仕手戦はみんなの勝利だと思うんだ。僕のアイデアも必要だったし、オオサキの株式も必要だった。ムハンマドの偵察も必要だったし、コダマ証券の情報収集や執行能力も必要だった」 「そうですね」コダマは頷きながら言った。 「だから、仕手戦の利益は山分けしない?」 「山分けというと?」コダマは武の意図を確認する。 「僕たち、コダマ証券、オオサキで1,000万円ずつ、というのはどうかな?」 「オオサキに1,000万円は必要ないわよ」お菊さんはなおも食い下がる。 「オオサキが協力してくれなかったら、仕手戦に勝てなかったんだよ。3等分でいいじゃない」  お菊さんはまだ諦めていない。  3,000万円は無理だったとしても、オオサキがいなければ1,500万円もらえる。  お菊さんはコダマに詰め寄った。 「アンタはどうなの? これでいいの?」 「まあ、しかたないですね。みんなで仕手戦に勝利したんでしょうから・・・」コダマは静かに言った。  黙り込むお菊さん。  お菊さんは武を笑顔で見ている。 ――僕の取り分を狙っている・・・  武はそう直感した。
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