少年と少女の初デート

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少年と少女の初デート

 アリスからデートを申し込まれた武は、戸惑いながらも初デートを開始することにした。  ここは千葉中央埠頭の入り口。周りには倉庫しかない。  この周辺の唯一のデートスポットである喫茶店から出た武とアリス。  そこには道、倉庫、道、倉庫、道、道!! ―― なにもねー  武はそう思いながらも、隣を歩くアリスを見つめる。西から差し込む陽の光がアリスのブロンドの髪を赤く染める。倉庫街を歩く少年と少女の影が西日で大きく伸びている。  そんな二人が歩く隣を猫がついてくる。  猫はアリスのスカートの中をチラチラ見ながら「何色か聞きたい? 聞きたい?」と呟く。アリスの隣を歩いている武は猫と話せるわけもなく、無視し続けている。  デートの邪魔をして遊ぶ猫。初デートにのまれる武。  この1匹と1少年の戦いはしばらく続いた。 「アリスちゃんは・・・」と武が言いかけたら、「アリスでいいわよ。私も武っていうから」とアリスは言った。 武は最近知った当り障りない質問を始めた。 「アリスは、今日何食べた?」 「何も食べてない」 「好きな本は?」 「それは内緒!」 「どこに遊びにいくの?」  何を聞かれても、のらりくらりとはぐらかすアリス。 ―― コイツ、この曲を知ってるな・・・  武は質問を変えることにした。 「じゃあ、アリスはいま何歳?」武は尋ねた。 「女性に年齢を聞くのは失礼なんだけど・・・まあいいわ。私は11歳よ。武は?」 「僕は10歳。アリスは日本の学校に通ってるの?」 「私の行っている学校はインターナショナルスクール。外国人学校と言った方がいいかしら」 「へー、そこにはたくさん外国人がいるの?」 「そうね。私みたいに親の都合で日本に住んでいる外国人が通ってる。武も暇な時に遊びにおいでよ。案内するからさ!」 「ありがとう。それにしても、僕、デートするのが初めてだから緊張してるんだ。アリスは誰かとデートしたことある?」 「あるわよ。ボブでしょ、ディランでしょ、デイヴィッドでしょ、ボウイでしょ・・・」  武はどこかで聞いたことがある名前だと思ったのだが、そこは振れない。  二人は話しながら倉庫街を歩いていく。 「すごいね。経験豊富だ!」 「私なんてまだまだよ。同級生の中には、年上の彼氏といろいろしている子もいるらしいわ」 「いろいろ?」武は少女の恋愛事情に興味津々だ。 「キスとか、そういうの。ねえ、武。キスしたことある?」  アリスは武にそう尋ねた。 「キスってどういうキス? テレビドラマで外国人が家族とキスするシーンがあるけど、そういうのかな?」 「違いまーす。恋人は家族と違うキスをするの」 「え? どういうキスか分からないんだけど、テレビドラマのキスと何が違うの?」 「知りたい?」とアリスは武に言った。 ―― え? キスするの?  無言で小さく頷く武。 「ここだと恥ずかしいから、こっちきて」  アリスはそう言うと、近くにあった倉庫へ向かって歩き出した。武もドキドキしながらアリスについていく。  猫は後ろで「恥ずかしいって・・」「照れるなー」と騒いでいる。  アリスは倉庫に着くと、ドアを開けて中に入った。  武がアリスについて倉庫の中に入るとスーツを着た男たちが立っていた。 「ダディ、連れてきたわよ」  アリスは金髪のオールバックに抱き着いた。ダグラスだ。 「お前、騙されたなー」とニヤニヤしながら言う猫。  女の子にデートに誘われて浮かれてしまった武。  キスできるのではないかと倉庫に連れてこられた武。 ―― これが、噂のハニートラップか・・・  10歳の少年は女性が恐ろしい生き物だと知った。  こうして武の初恋は終わった。
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