ダグラスの第3の試練

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ダグラスの第3の試練

 ダグラスの卑怯な妨害にも負けず、第2の試練を突破した武。  そんな武に「武、やったねー!」とアリスが抱き着く。またしてもダグラスの鋭い視線を感じる武。 「親父、ピンチだなー」「焦ってるぞー」と言う猫に、「知ってるって・・」と武は小声で答えた。  次の試練を武にクリアされると、娘との交際を認めなくてはならないダグラス。武に絶対に突破されない第3の試練を用意しなければいけない。  ダグラスは「ちょっと待って」と言った後数分考えこんだ。 「よし、第3の試練を発表する!」 「武、頑張れー」アリスの黄色い声が飛ぶ。 「うぉほん、第3の試練は運を試す。つまり、お前が強運の持ち主なのかをテストする。今回の試練は俺との勝負だ。そして、この試練は危険だ。ここで辞退したければ、してもいい。どうする?」ダグラスは武に確認する。 「どうするって言われても、第3の試練が何か分からなかったら、判断しようがないと思うんだけど・・・」 「そうだな。ヒントをやろう! アントニオ、あれを!」  ダグラスがそう言うと、アントニオが拳銃を差し出した。  リボルバー(回転式拳銃)だ。  リボルバーを使ってやる試練といえば、あれしか思い浮かばない。 ―― ロシアンルーレット!? 「ルールは知っているな?」ダグラスは武に聞いた。 「もちろん。弾を1発だけ入れて、お互いに自分の頭に向けて引き金を引くゲームだよね?」 「そうだ、やるのか? やらないのか?」 「ちょっと待って、少し考える」武はそう言った。  武は自ら望んでこの試練に挑んでいるわけではない。第3の試練は危ないから止めてもいいと思う。でも、止めたらダグラスはきっと言うだろう。 “腰抜け 腰抜け 腰抜け 腰抜け 腰抜け 腰抜け”  ちょっと屈辱的だ。それに、 ―― こんな茶番でロシアンルーレットするのか?  武はそう思ったものの、“テロリスト < 父親”になっているダグラスは正しい意思決定ができていない。  武の予想では、ダグラスはロシアンルーレットを本当にするとは思っていないだろう。  ダグラスの目的は武に試練を辞退させること。  武がビビッて試練を止めることをダグラスは望んでいる。  つまり、ダグラスの目的はアリスの前で「コイツは腰抜けだ!」と言うこと。  武にはちょっと屈辱的。  武はこの試練について分析する。  ロシアンルーレットはリボルバーに1発だけ実弾を装填し、自分の頭に向け引き金を引くゲームだ。このリボルバーは6発式だから、実弾が出る確率は6分の1(16.7%)。  もし武が実弾を引いてしまった場合、助かる可能性について考えてみる。  銃身(バレル)はそれなりにスペースがあるから、金属片を流し込めば弾は飛んでこない。  そうすると、武が実弾を引いても死なない。  次に、ダグラスが実弾を引いてしまった場合について考えてみる。  ダグラスは実弾を引いたら確実に死ぬ。 ―― この試練はダグラスだけが死ぬのか・・・  倫理観の薄い武でも、この試練はダメそうな気がする。ダグラスが死ねばどうなるか?  まず、武たちへの依頼はダグラスを捕獲することだ。生死を問わないとは言われていない。つまり、ダグラスが死んだら報酬が貰えないかもしれない。 ―― お菊さん、怒るだろうな・・・  武は次に初恋の相手アリスのことを考えてみる。ダグラスが死んだらアリスは悲しむ。  それに、ダグラスが死んだらアリスにとって武は『父の仇』になる。アリスは父の仇としてどこまでも追いかけてくるだろう。ちょっと面倒だ・・・  武は一つの結論に達した。 ―― ダグラスが死んだら誰も得しない!  ということは、ダグラスにロシアンルーレットを止めさせるべきだ。  武が言っても無駄かもしれない。でも、試してみる価値はある。 「一つ確認なんだけど・・・」武はダグラスに言った。 「なんだ?」 「僕はロシアンルーレットで実弾を引いても死なない。アリスのお父さんは死んでしまう。だから、ゲームとして成立しない・・・と思うんだ」 「気安く俺のことを『お父さん』と呼ぶな! 俺はお前のことを認めていない!」  ダグラスは『お父さん』に敏感になっている。ロシアンルーレットよりも、そっち(お父さんと言われたこと)の方が重要らしい。 「じゃあ、おじさんと呼ぶね。そもそも、僕と戦うのがおじさんには無茶なんだよ。僕は普通の人間じゃない。このゲームで死ぬのはおじさんだけ。それでも、やる?」 「嘘ついてるんじゃねー! 拳銃で死なない奴なんているわけないだろ!」 ―― 困ったな・・・  武が困っていたら、お菊さんから通信が入った。  今まで連絡がなかったのは、お菊さんなりに気を使ってくれていたのかもしれない。  余計なお世話だけど・・・ 「ヤッホー、武くん。デート楽しんでる?」 「いや、ダグラスと対峙してる。アイツ、僕とロシアンルーレットをしようって言うんだ。でも、このままだとアイツの自殺になっちゃうでしょ。だから、警察を呼んでくれないかな?」 「あらまー。そんな修羅場だったのね。分かった」  これで、お菊さんが警察を手配してくれそうだ。  後は時間稼ぎをするだけだな・・・
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