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仕手のお仕事
ピーチ・ボーイズの資金源を断つために総会屋対策を提案した武たち。次の資金源を断つ計画を練るためにコダマ証券に戻ってきた。
「武くん、お手柄だね。良かったよ!」コダマは喜んでいる。
「いやー、それほどでも・・・あるんだけどね」武は照れながら言った。
「でも、ダグラスのビジネスはまだある。武くん、これからだよ!」
武はピーチ・ボーイズの資金源の一つを潰せたことに満足している。
満足しているものの・・・納得できないことが一つある。
皆様はお気づきだろうが、そもそも武は正義感が強いタイプではない。倫理観もほぼゼロだ。だから、武の行いが世の中の役に立ったとしても、全く嬉しいとは思えない。
この不満は、やや屈折した少年時代特有の感情からくるもの。
脳筋の前鬼からいい案が出てこないのは当然だ。お菊さんは直ぐに頭に血が上るから、冷静に何かを考えることが苦手だ。だから武が働かないといけないのは理解している。
―― でも、僕だけ働いてないか?
武だけが働いているのに待遇がそこまで良くない。武は自分の不満が何かに気付いた。
―― もっとチヤホヤしてくれてもよくないか?
みんなが武をチヤホヤしてくれるかは不明だが、まずは不満を言って待遇改善を求めることにした。
「僕ばっかり働いて、ズルくない?」
「旦那、そんなことないですよ!」
前鬼はそう言って武の肩を揉み始めた。
武は少しチヤホヤを感じた。
「武くん、すごく恰好よかったわよ!」
お菊さんはそう言うと飴ちゃんを武に差し出した。
決して悪い気はしない。武はまたチヤホヤを感じた。
武が不満そうな顔をしているのに気付いた猫。
ボソッと「また、アリスに会えるんじゃねー?」と武に言う。
「そうかな?」
「次は挨拶しないとなー」
一気に機嫌が直る武。
気分が良くなったので「次は手伝ってよ」と武は言って飴を受取った。
***
3人のやり取りを静かに見ていたコダマ。頃合いを見計らって武に話かけた。
「さて、次のターゲットは仕手(して)です!」
「仕手?」
「まあ、簡単に言うと株価操縦をする連中のことです」
「へー」
「ダグラスは投資グループを作っていて、株価操縦はそのグループで動きます。ダグラスのような投資グループを『仕手筋』といいます」
「仕手筋は何するの?」
「まずは、出来高が少なくて、時価総額が低い、株価が割安な会社の株式を買い集めます。これを『玉集め』といいます。次に、『その会社に投資すると儲かる』という噂を流しながら株式売買を繰り返していって、少しずつ株価を上げる。これを『玉転がし』といいます。そうすると、投資家はその会社の株価に期待するから出来高(売買代金)は増えますよね?」
「そうだね」
「投資家がある程度注目してから、仕手筋は本格的に株価を吊り上げていく。具体的には、仕手筋と情報提供を受けた投資グループが、買って買って買いまくる!」
「仕手筋はお互いに協力関係にあるんだね」
「そうですね。1つの仕手グループだけだと限界がある。だから、協力関係は必要です」
「へー」
「仕手筋が買いまくると株価は急上昇する。投資家はもっと上がると思ってその株式を買いにくる。仕手筋はその買いに対して株式を売却して利益を確定する。図にするとこんな感じですね」
コダマはそう言うと紙にペンで図を描いた。
【図表4-1:仕手の手口】
武はコダマの書いた図を見ながら考えている。
「ダグラスはこうやって資金を稼いでるんだ」
「そうです」
「でもさ、相場操縦って違法じゃないの?」と武はコダマに聞いた。
「相場操縦は違法ですよ。でも、逮捕されるようなことはありません」
「捕まらないの?」
「捕まりませんね。仕手がターゲットにするのは割安な会社の株式です。何か言われても『注目されたから上がった。株価が適正水準になっただけだ!』と言い逃れできます」
「グレーなんだね」
「そうです。グレーな取引だからダグラスは逮捕されることはありません。この方法で安定的に資金を稼いでいます。株式取引はゼロサム(参加者の利益・損失を合計すると利益がゼロになること)だから、素人からお金を巻き上げているだけですけどね・・・」
「カツアゲと一緒だね・・・」
「そうです。グレーなカツアゲです」
そういうとコダマは武を見据えていった。
「ピーチ・ボーイズの資金源を潰すために、武くんは仕手筋と戦わないといけない」
―― 仕手筋と戦うってなんだよ?
武が横を見ると、お菊さんは拳を上げて「ガンバロー!」と叫んでいた。
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